私の両親は結婚して間もないある日突然、国内最古の神社の神職から呼び出しを受け、違う世界で働くようにと言われたのだそうだ。

何でもこれからその国で流行る病はまだ治療法が確立されておらず幼い子供がかかると致死率が高いのだと言う。

それはわが国ではすでに大昔に絶滅した病で皆体内に抗体を持っているから、両親が治療にあたっても感染する心配はないのだとか。

「”救国の旅人”ですね」
父がそこにいた年配の神職に尋ねると、重々しく「女神のご託宣があった」と返事があり即座に両親は頷いたのだ。

”救国の旅人”
女神のご託宣により異世界に送られる人のことを”救国の旅人”と言う。
その昔、女神の祖先が嫁入りをしたこことは違う世界に危機がある時に”救国の旅人”はその役目を背負ってあちらに送り込まれるという。

使命を果たした後はそのまま異世界に残ることも元の世界に帰国することも許されている。

私の両親は異世界で私を出産したため残ることを選んだらしいが、たまに医薬品の補充をするために祖国に戻ったりしている。

その間、私はなぜか留守番なのだ。
詳しく聞いたことはないけれど、”救国の旅人”なのは両親のことだけを指し私は異世界に行き来することができないのかもしれない。

「地上でそんな流行り病があったとは聞いたことがないように思いますが」
パメラさんがおずおずと言い出した。

「うん、数人が感染して発症した状態で両親が治療をして周りの人にはワクチンを打ったらしいの。だからパンデミックになる前に流行すらしなかったみたい。私が生まれる前だから30年くらい前の話かしらね。
うちの両親も自分たちのことを異世界の人間だとは公表していないから世間で認知はされていないんじゃないかな」