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翌朝いつも通り出勤すると、社内は騒然としていた。

始業前なのにオフィスの電話はひっきりなしにかかって来ているし、廊下もパタパタと走っている社員の姿が目立つ。
オフィス内のミーティングスペースではすでに電子カタログを手にしたグループがミーティングを始めているし、広告宣伝部のメンバーも走り回っている。

「なに、なに?何の騒ぎ?」
ドア付近で立ち話をしているテレフォンセンターの女子社員に声をかけると、彼女たちも今来たばかりで戸惑っているらしい。

「すごい大型契約が入ったみたいですよ」

ふうん、と頷くと
「臨時ボーナスが出るかも、って言ってた人もいました」
と嬉しそうにしているから私もニヤリとしてしまう。

臨時ボーナス欲しい。
是非とも欲しい。

にやけた顔のままデスクに向かうと、慌てた様子でシェリルさんが駆け寄ってきた。

「秋月さん、社長が呼んでるの。直ぐに社長室に行ってちょうだい」

え?社長?

「早く行ったほうがいいわ」
手にしていたバッグを奪われてシェリルさんに背中を押されて我に返る。

「社長って、まさかシャボットの社長ですか?でも、私社長みたいな雲の上にいる方に呼び出されるような覚えがーーー」と言ってハッとした。
一晩寝ると嫌なことはすぐに忘れるという幸せな体質で、大事なことをすっかり忘れていた。

マズイ。
きっと私の発言と行動が問題になってVIP相手に失礼だとかって大事になってしまったんだわ。

もしかして私、クビになっちゃうのかしら。
それとも、国家規模のトラブルになっていたらどうしよう。
私のクビなんかじゃ足りないだろう。

ざあーっと血の気が引き、背筋が冷たくなる。

「い、行かなきゃダメですか?」
念のため声に出してみたけれど、答えは決まっている。

「早く行きなさい、すぐによ、す・ぐ・に」
シェリルさんに怖い顔で睨まれて泣く泣く私は諦めて社長室に向かうことにした。

歩き出した私の背中にシェリルさんの声がかかった。
「大丈夫よ。大きな取引が決まって上機嫌のはずだから。でも、もしクビになったら私が次の会社探すの手伝うわ。あなた好みのメガネで独身イケメンの社長秘書がいるところを探してあげるから」

それって今流行りのドラマの設定ですよね。
確かに今はまっててなんて昨日話しましたけど。
心配してくれているのかそうでないのか、本当にわかりにくい上司だ。