刺されたところは痛い、本当に痛い。
声を出すのも本当は辛い。
でも、死ぬほどの傷じゃないのはわかってる。だから、ね、私は大丈夫だから。

でも、みるみるうちにクリフ様の表情が変わっていく。

怒りだ。

瞳が、彼の燃えるような赤い瞳が、黒い闇に覆われていく。

ダメ。
クリフ様、ダメよ。

彼が怒りを爆発させたらどんなことが起こるかわからない。

宮殿の床がカタカタと小さく揺れはじめ地響きがする。

ありったけの力でクリフ様の腕を揺すった。

「ダメよ、力を暴走させないで」

だが、クリフ様の瞳は目の前の私を通り越してその先を見ているようでどうしても私と視線が合わない。

「私は大丈夫、だいじょうぶだからっ。見て、私を見て!!こっちを向いて!」

大きくなる地鳴りに私は絶叫した。「クリフォード!!」

ぱあんっと弾けるようにクリフ様の瞳の色が赤色に戻り、怒りに燃えた顔色も戻ってくる。

「楓」
ハッとしたように頭を数回振ると、私の傷に触れないように縦に抱きなおし立ち上がった。
カツカツと靴音を立てて応接室に入りぞっとソファーに私を横たえる。

「傷、診せて」

部屋に入ったと同時に魔法の結界から離れたせいか痛みが和らいでいる。それでもう既に彼が治療のための魔法をかけてくれているのだとわかる。

私の返事を待たずに、彼が私の着ていた魔法のローブを裂くと下から血で塗れたブラウスが現れる。

それを見たクリフが息をのむ気配が目を閉じていた私に伝わってきて再び「大丈夫よ」と声を出した。