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クリフ様はどこだろう。
この時間なら執務室だろうと思うんだけどな。

夜、離れの館でクリフ様の帰りを待つという手もあったけど、彼になるべく早く時間を作って欲しかった。
もうすぐ昼になる。いつもならお昼は私の元にカードを届けに来てくれる時間だ。それならば先に私がここに居ればいいと思ったのだけど。

ただ、今日はどこかの使節団が来ているみたいで宮殿内がざわざわとしている。
見たことのない民族衣装の集団が西の塔に続く渡り廊下を歩いている姿を遠目に見たし、あちこちに警備している兵士の姿が目立つ。

宮殿の回廊をなるべく目立たないようにと俯きながら執務室に向かっていると、その先の応接室からクリフ様が出てくるのが見えた。
その後に続いて出てきたマルドネス様と若く上品で穏やかな笑顔の女性を見て私は一寸足を止めた。

菫色のドレスを着た女性はお腹が大きかったのだ。

あの方がアリアナ様なんだわ。
お会いしたことはないけれど、マルドネス様が肩を抱くようにしているし間違いはないだろう。

大きなおなかを支えるように立つアリアナ様をそれは愛おしそうな目で見つめるマルドネス様とそれに笑顔で応えるアリアナ様。
二人の間に流れる空気はとても穏やかでその周りにいる者たちにまで影響を与えるらしく、皆笑顔を浮かべている。

これが竜とその番の姿なのか。