ーーー楓、客だ。ーーー
ヴィーの声に顔を上げると、上空を竜が飛んでいるのが見える。
こちらの様子を伺うように旋回しながらゆっくり結界ギリギリまで降下してくる。
クリフ様だ。
初めてみるその姿だけど、クリフ様だとわかる。
輝く赤い瞳の漆黒の竜。間違いない。
私は立ち上がり、遠く高い所にいる彼を見上げた。
結界からは離れすぎていて目が合ったかどうかはわからない。
漆黒の竜の身体から白いものがはらりと落ちてそのまま結界をすり抜けはらはらとハーピアの草の上に舞い落ちた。
私がそれを拾いあげるのを見届けると竜は大きく羽ばたき上空へと姿を消してしまった。
「なにも急いでいなくならなくてもいいのに」
2週間ぶりに見たクリフ様の姿に思わず小声で文句を言ってしまう。
ーーー会いたいのか会いたくないのか。離れたいのか、離れたくないのか、どっちなんだ、一体。ーーー
ヴィーがばかにしたような声で答える。
「ごめん、声に出したつもりはなかったんだけど」
ーーー出ていたな、しっかりと。ーーー
「それは失礼しました。・・・で、これは何かしら。どうしてこれは結界を越えられたの?」
私の手の中にはクリフ様が落とした名刺サイズの白いカードがある。
ーーーその程度の大きさで楓に害のないものならば結界をすり抜けられるように調整しておいたのだ。
それより、それを見なくていいのか?ーーー
「そうだわ。これ、何かしら?」
白いカードの裏に赤黒いインクで一行だけ文字が書かれている。
『愛している』
・・・思わず、カードを落としそうになった。