目の前に立つヤナーバル様の髪の色と同じくすんだ赤い瞳が怪しく光ったと思った瞬間、私の前にいた護衛があっという間に後ろに吹き飛び柱に叩きつけられた。

ひっと悲鳴が喉の奥で消え、足が動かなくなった。
吹き飛ばされた護衛が心配で駆け寄ろうと思ったのに足が動かないしなぜか声も出せない。

私を背にかばうパメラさんも同様のようで小さなうめき声を出して身体を震わせている。動きたいのに動けない。

怖い。

この男の悪意が無数の針となって私の身体に突き刺さってくるようだ。

おそらくはパメラさんも私も魔法で身体を拘束されている。

「か、楓さま、ーーーお、逃げ下さいーー」
柱に叩きつけられた護衛がうめくような声を出すけれど、どうしても身体が動いてくれない。

指先がかろうじて動く程度で呼吸さえうまくすることができない。
苦しい、怖い。
恐怖で血の気が引き、拘束されていなければ倒れていたかもしれない。

「ほら、どうした小娘。私の力に抗ってみよ」

同じく魔法で動けないでいるパメラさんを押しのけて、ヤナーバル様がいやらしい笑いを口元に浮かべて私の前に立つ。

ヤナーバル様が真っ青になった私を見てせせら笑いながら更に一歩近づいた。

やめて、近付かないで!
心の中で叫んでも声にならずかすれた声が出るだけ。

「楓さま、お逃げ下さい!」
パメラさんの声が響くと彼女も柱に向かって飛ばされてしまう。

「パメラっ!」

ヤナーバル様がスッと右手を上げた。

「どうせ、お前が王妃となっても竜でないお前に子は出来ぬ。そんなものなら最初からいらぬではないか。ミーナを側室ではなく、初めから王妃にして子をなせばいいのだ」

私を見てニヤリとすると、廊下の窓が大きく開いた。

それを見た瞬間、これから起きることを理解して身体が縮みあがり絶望が襲った。