わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~

「何があったの、秋月さん」
シェリルさんも焦った様子で部屋に入ってきた。

上司に今ここでクリフォード様ににセクハラされたと訴えるのは簡単なことだ。
しかし、根が社畜の私は我に返り告発するのをためらってしまった。

本人にはセクハラだと伝えたし、今後接点を持たなければ上司に訴えるなんてことをしなくてもいいのかもと。
事を大きくして事情を何度も聞かれるのも不愉快だし。

シェリルさんに説明しても、その後会社の上層部に呼ばれて訊かれるだろう。その後も社長に、そして政府関係者にも話が及ぶことになるかもしれない。
そう思ったら急に足が震えて来てしまった。
ついさっきまでは会社の都合も政府の都合も知ったことかと思っていたのに。

どうしよう・・・と逡巡していると、
「すまない、私が彼女との距離の取り方を間違えてしまって怯えさせてしまったのだ」
とクリフォード様が口を開いた。

「秋月さま、私の方からも謝罪させて下さい。クリフォード様には楓様に危害を加える意思など微塵もございません、今だけではありません、未来永劫に渡って」

「楓、申し訳なかった」

金髪秘書とクリフォード様が揃ってすぐに謝罪してくれたことで私も落ち着いてきた。ちょっと甘いかなと思うけど。

「私も大きな声を出してしまって申し訳ありません。ちょっと驚いてしまって。シェリルさんもすみませんでした。大丈夫ですから」

よし、逃げよう。
それから私は足早にこの部屋を出ることにした。

「お忘れ物のお届けもできましたので私はこれで失礼いたします」

背後で声が聞こえたような気がするけれど、完全にシャットアウトして後にした。
「やっと見つけた」とか「間違いない」などと言う言葉は私に対してのものではないだろう。