クリフ様が駆け寄ってきても石のように固まっている私に違和感を感じたらしい。

「楓、ヘインズから簡単に報告を聞いたけど、ミーナ姫に何を言われた」

怒った顔をして近付いてきたのに、今は心配そうに私の顔をのぞき込んでくるクリフ様の気持ちがわからない。

「ミーナ様を怒らせてしまったみたいで・・・申し訳ありません」

俯いたまま返事をすると、ちっとクリフ様の舌打ちが聞こえた。

「侍女はどこだ、ヘインズも呼べ。どうしてミーナが楓のところに来たのかわかるものは誰だ」
大きな声で急いでついてきた侍従をはじめとした周りに指示を出している。

私は不安と恐怖で俯いたままクリフ様の顔を見ることができない。
右手で左手をギュッと握りしめ身体を固くしていた。

とりあえず今ここから逃げちゃダメかしら。
気持ちが身体に表れていたらしく、リクハルドさんが私の背後に一歩近づいた。

驚いて振り返りリクハルドさんの顔を見上げると、黙って小さく首を横に振るリクハルドさんと目が合った。

侍女を除けば日中私と一番長い時間一緒にいるのはリクハルドさんで、最近は私の行動パターンを読んでいるようだ。

逃げたかったのにと恨みがましい目を向けてやると、目を細めてもう一度小さく首を横に振られてしまった。

逃げてはいけないことも逃げられないこともわかっているけどね。

逃げようとした私の気配を感じたのか、パメラからいきさつを聞きながらもクリフ様の左手が私を引き寄せ私の右手としっかりと繋がれてしまった。

「楓、どうしたんだ」

声をかけられても返事が出来ない。
ぎゅっと真一文字に口を閉じて俯くことしかできないのだ。

クリフ様は私から事情を聴くことを早々に諦めたらしい。リクハルドさんにも聞き取りを始めた。