「少し中庭に行って来てもいいかしら?」

「中庭ですか?」

「そう。ここに居るとモヤモヤしちゃって。外の空気を吸いたいの」

パメラさんとリクハルドさんが顔を見合わせている。同意してもいいものかと逡巡しているらしい。

「中庭は行動の自由が許されているでしょ?」
ね、と促すと渋々ながら許可してもらえ私はリクハルドさんを護衛に部屋を出た。

パメラさんは執務室へと早足で駆けていった。
先ほど侍女の一人が先に執務室に行っているからそんなに急がなくてもいいのにとどこか他人事にように感じて、ため息をついた。

この現実を受け止められなくて心が割れてしまいそうだ。


中庭に出て周りを取り囲む宮殿の建物を見回すと、南側の建物の一部に足場とネットがかかっているのが見える。
私が離れの館に出ると同時に始まった工事だ。

あれがクリフ様とミーナ様のお部屋だということなのーーーーーー?

勢いよく建物から目を背けると、東の花壇に向かって歩き出した。

いつもクリフ様と空を眺める東屋は中庭の西側にある。
今日はそちらには行きたくない。

反対の東側にはハーピアというクローバーに似た形の白い葉と綿毛のような黄色のふわふわとした花が膝下まで茂る場所があるのだ。
そのレモングラスのような爽やかな香りがする中で気持ちを落ち着けたくなった。

「少し、一人にしてもらえる?」

「・・・遠くに離れるわけにはいきませんが。楓さまの視界に入らない場所に居りますので」

「気をつかわせてごめんね」

いいえ、とリクハルドさんが会釈をして下がっていった。