私が難しい顔をして黙ったのが気になったらしく、クリフ様が顔をのぞきこんできた。

「楓?嫌か?」

思わず息をのむ。
毎日顔を合わせていてもまだこの美形に見慣れない。ましてやこのどアップなんて私の心が耐えられない。

それと、私が婚姻を了承したというのに、彼はまだ不安らしいのだ。
嫌か?と聞いてきた時の瞳の奥の紅い光はゆらゆらと不安に揺れていた。

何てわかりやすいのだろう。
大袈裟なほど両手を顔の前でひらひらと振って大丈夫だと伝える。

「えーっと、荷物や引っ越し手続きとか両親に連絡とか、もろもろを考えてました。こちらに来る時はいきなりでしたからね」

「ああ、それについては悪かった。ああでもしなければ楓は来てくれなかっただろうから」

「まあ、そうでしょうね」
クリフ様は居心地悪そうに頭を掻き、私は苦笑した。
「それらに対してはこちらで何とかしよう。楓が一度地上に戻ればいいのだが、楓の身体はまだ完全には魔力に馴染んでいないから転移魔法の負荷に耐えられない。
来る時と同じ方法を使うと、また高地順応期間が必要になって婚約披露に間に合わなくなってしまう可能性があるだけじゃなく体調を崩せば婚礼に支障が出てしまう。
だから、地上には婚礼が終わり落ち着いてから時間を作りゆっくりと連れて行こう。
本人でなくてのいいような手続きはこちらでしておくから心配はいらない。
ーーーそれでいいか?」

「わかりました。よろしくお願いします」