トントン。

「虹子。明日の用意はできたか?」

哲翔さんが顔を覗かせた。


「ええ。大丈夫」

「そうか。俺はちょっと出かけてくる。太郎のマンションに行くから遅くなると思う。先に寝てろ」

「はい」


私は何も言わない。

たとえ今日が週末の金曜日でも。

太郎さんの家には咲良さんも来ていると知っていても。

口にするべきではないんだ。


「虹子様。お顔の色がすぐれませんが?」

「えっ、大丈夫です。乃梨子さん心配しすぎ。さぁ、今日は早く寝ますね」

こんな話しは乃梨子さんにもできない。

お金持ちって、恵まれているようで結構孤独なのよね。