パーティーでの一件から、私と哲翔さんの喧嘩がなくなった。

と言うより、ちょっと距離をとるようになってしまった。


あの後哲翔さんは、勝手に部屋に逃げ帰った私を怒りもせず「怖い思いをさせて悪かった」と謝ってくれた。

私は何も言わなかった。

逃げ出した本当の理由はそうじゃないなんて、言えるわけがない。

そんな事情を哲翔さんは知るはずもない。

後ろめたい思いのある私は、哲翔さんと顔を合わせるのを避けている。



「虹子様。明日のご用意は大丈夫ですか?」

乃梨子さんが心配そうに声をかける。


「お土産は用意してもらったし、着替えはまだ実家にたくさんあるし、後は・・・そうだ。乃梨子さん、母に庭のお花を持って行ってあげたいんだけれど、用意してもらえますか?」

「庭のお花ですか?」

「ええ。バラが好きなんです。わざわざ買っていけば、もったいないって言われるから、庭のバラを摘んでもらいたいんですが」

「分かりました。あまり目立たないように用意して、お持ちします」

「ありがとう」


そうよね、庭の花を持っていったってバレたらお母様に嫌がられそう。

こっそりの方がりがいいかも。