「どれ? 見せて」

そう声をかけると、おずおずと離れて場所を譲って彼女は申し訳なさそうに言う。

「すみません。こんなことを社長秘書の土居さんに頼むなんて……」

「困った時は、お互い様だ」

そう言って、俺はジャケットを脱ぎ、シャツを捲ってからコピー機の紙詰まりに対処する。

「お、取れた。これで大丈夫だと思うよ」

「ありがとうございます! とっても助かりました」

彼女は動き出してコピーを再開したのを見てホッとした顔をして言ってくれた。
その姿の愛らしさに、思わず手が出そうになるのを必死に堪える。
頭撫でるくらいなら、いいだろうか?
あの柔らかな髪に触れたい……。
俺は、優しく微笑んで彼女の頭にポンポンと手を置くと言った。

「どういたしまして。さて、コピーしたものはどうするんだ?」

「これで、課長のデスクに置いておけば今日は終わりです」

「そうか、お疲れ様。もし、このあと予定がないなら、一緒に食べに行かないか? 頑張った御褒美に、奢ろう」

そんな俺の誘いに、彼女はチラホラと特に人も居なくなったフロアに視線を漂わせたあと、ちらっと言った。

「いいんですか? 土居さん彼女とかいらしゃるんでしょう?」

彼女の言葉に、おや? と思いつつニコッと笑って聞いた。

「どなたかに、俺に恋人がいると聞きましたか? ここ数年、俺にはお付き合いしている人はいないし、寂しい独身男ですよ」

そんな俺の言葉に彼女は大きな瞳をさらに見開いて驚いていた。