とりあえず、まずはホテルへ荷物を預けに行かないと。

地図アプリにホテルの住所を入力。経路を検索。すると、10分ほどで到着するルートが表示される。

「よし。いざ行かん。」





「おかしい。おかしいおかしい。」
10分で着くはずだったでしょ。
もう30分は歩いてるはず。さすがに田舎娘の私でも、キャリー片手に30分はきついわ。

地図アプリを見ながら進んでいるはずなのに、一向に辿り着く気配が無い。

むしろ、人気のない裏道ばかりを進んでいる気がする。

目的地が近付いたり、遠のいたり一体どういうことなの!?

とりあえず、誰かに道を聞くべき……よね。

裏道であろう場所で1人の青年がタピオカ片手に横切って行く。こんな人気の無い道で黒いつぶつぶ!

違う!そうじゃない!道を聞くなら今しかない!

「あの!すみません!」
「え?」


青年は驚いた様子だったけど、目深に被った帽子で表情はあまりよく見えなかった。

今日は観劇のために用意したコンタクトを、付けていないせいでもあるのですが。


「あ、あの、実は私東京初めてで、ホテルへ行きたいんですが。場所が。」

「えっと…ホテル?」


慌てて声を出したことで上手く話せず、青年も困っていた。
どうしてこんなに話し下手なのか、私は……

とりあえずスマホを見せて、ここです!と指さした。
青年は戸惑いながらも、指の先を見て理解してくれたようで

「あっあぁ、ここですね。このホテルならあれですよ」

と指さしで教えてくれた。

その指の先を目で追うと……

「え、ビル、ですか?」

どう見てもホームページで確認した、スマートな清潔感あるホテルの外観からは程遠い外観のビルしか建っていない。

「えっと、今いる場所がこのホテルの裏で、グルっと表に回るとエントランスがある入口で……」

「えぇ!?あ、あ〜……そういう事だったんですね……なるほどぉ……」

恥ずかしすぎて穴があったら入りたいどころか、埋まりたい。

そうか、私はずっとホテルの裏をぐるぐる歩き回っていたのね。そりゃたどり着かない訳ですよね。

「ふっ、この地図じゃ仕方ないですよね。ホテルの裏口に案内してるようですし」

青年は私の反応に笑いをこらえていたが、私の脳内は恥ずかしさと自分の方向音痴への恨みで支配されていた。


その慌てふためく私を見て、青年はさらに笑いをこらえているようだった。