「か、帰る!」



私はそれだけを大声で言うと、両手でバッグを抱えて部屋を飛び出した。



事務所を出て、エレベーターを待つことすらじれったくて、私はそのまま奥にある非常階段を駆け下りた。

ヒールを履いた不安定な足元で、階段をカッカッと下りていく。

その間も心臓はドキドキと音を立てて、全身の熱も上がったままだ。



『俺は今でも、入江のこと好きだけど』



今でも好きなんて、そんなことありえない。

だってもう12年も前のこと。

絶対からかわれただけだ。



そうわかっていても、耳の奥に彼の低い声が残る。



もう12年も前のこと、それは私にとっても同じはずなのに。

近い距離が、あの頃と変わらないときめきを感じさせるんだ。



この熱は、夜風に触れても冷めることなく。