一颯にはああ言ったけれど、今日の俺には別の目的があった。

「泰介」
店の奥から俺を呼び、手を振る美女。

その目立つ外見から、周囲の人たちの注目を集めている。
当然、彼女の視線の先に立つ俺にも好奇の目が向けられる。

ったく。

昔から、あいつの側にいるとやたらと人に見られる。
本人は全く気にしていないようだが、俺はどうしても慣れない。


「お前、声でかいよ」
彼女の座るカウンター席に近づき、つい注意してしまった。

「2年ぶりに会って、いきなり説教?」
プッと頬を膨らませ拗ねてみせる美女、川野夏輝。
今はモデルのナツキとして有名になってしまった。

「久しぶりだな」
「そうね」


数日前、俺は約2年ぶりに夏輝からの電話を受けた。

『久しぶりに会えない?』
そう言われ、正直ためらった。

爽子のことが頭をかすめた。
隠し事をするようで、嫌な気分だ。

『2人がダメなら、一颯も誘う?』
俺が困っているのを感じ取って、たたみかける。
これはどうしても会いたいって事。

「いや、2人でかまわない。時間と場所を連絡してくれ」
『週末金曜日の夜でいいかしら?』
「ああ」
『場所と時間はまた連絡するわ』
「分かった」

昔から、夏輝に隠し事ができたためしがない。
ある意味天敵なんだと思う。
である以上、逃げていないで会った方が得策だと判断した。

こうして、俺と夏輝は再会することになった。