カフェを出た泰介さんが、話し込んでいる。

私は少し距離を取りながら、近くにあったベンチに腰を下ろした。


泰介さんの会社は今流行のIT企業。
浮き沈みの激しい業界にあって、かなり安定して業績を伸ばしているとおじさまが言ってした。
「今の若者にしては珍しく、堅実で真面目な起業家」
それがおじさまの評価。

チラッと私を見て手を合わせる泰介さん。
私は「大丈夫ですよ」と笑顔を返した。

やっぱり今日は帰った方がいいのかもしれない。
仕事が気になったままでは泰介さんも休まらないだろうし。
無理しなくてもこれからだって会う機会はあるんだから。

私は立ち上り、泰介さんに歩み寄ろうとした。

その時、

「あっ」
歩いて来る人とぶつかりそうになった。

「すみません」
慌てて頭を下げる。

ここはビルの一階ホール。
色んな方向から人が出てきて当然。
夕方の帰宅時間にはみんな入り口に向かっているんだから、油断すればぶつかるのはわかったことなのに。

「すみません。大丈夫ですか?」
相手の人も、謝罪の言葉を口にする。

「大丈夫です。よそ見をしていて・・・」
そう言って頭を上げた瞬間。

私は固まった。

嘘。