「あのー」
真っ直ぐに男性に近づき、目の前で足を止める。

絶対に気がついているはずなのに、男性は足元を見つめたまま。

「あのー」
再び声をかけてみた。

ゆっくりと立ち上がり私を見たその瞳は綺麗な茶色で、そのまま漫画の主人公みたい。


「田島泰介です」
「高杉爽子です」
お互いに自己紹介をし、席に着いた。

待っている間あんなに困った顔をしていたくせに、優しく接してくれる田島さん。
言葉や行動の端々に礼儀正しさが感じられて、いい人だなあと思える。
そして、話をすればするだけその思いは強くなった。


「田島さんはお嫌いですか?」
自分でも意識することなく、口にしていた。

どうせはじめからうまくいくはずなどないお見合い。
私もおじさまに勧められ断れなくて来ただけだし、
待っているときに表情で、田島さんも同じ気持ちなのだと気づいた。
それならはっきりと聞いてみよう。
そう思って言った言葉。