ええっ、と思った。今まで付き合ってきた年月が、たった一杯のお味噌汁で壊れてしまうなんて、信じられなかった。
 どこがまずかったのか分からない、と尋ねる私に、彼は『お前は味オンチだから』と告げて帰っていった。

 彼が、後輩の女の子と付き合い始めたと聞いたのは、それからすぐのことだった。毎日自分で作ったお弁当を持ってくる、家庭的と評判の女の子だった。

 内定先は潰れ、彼氏にも振られ。私は一か月でだいぶげっそりとやつれてしまった。ご飯が喉を通らないのだ。
 就職先のことを考えると胃が痛くなるし、何か食べようとすると彼氏の『味オンチ』という言葉が何度も頭をかすめる。
 なんとか食べられたのはゼリー飲料と、包丁が必要ないバナナくらい。心配した友達が外食に連れ出したりもしてくれたけど、ダメだった。

 また、ごはんがおいしく感じる日なんて、来るのかな。