何馬鹿なことしてるんだ、返事なんて返ってくるはず無いだろうと。と恥ずかしくなり火照った頬に手で風を送った。


『とりあえず、階段で下に下りてみようか』


そうするしか手は無い。意を決して鳥居の向こうの階段へ向かった。しかし、その足はすぐに止まっってしまう。
微妙な違和感を感じたのだ、先ほどまでと吹いている風が、揺れている木々の雰囲気が何か違う気がした。


『なに??』


振り返った鈴の視線の先で、黒い靄が渦を巻いている。小さくともそれは異様で、恐怖感を覚えるには十分なものだった。


黒い靄は徐々に人のような姿になっていく。黒く異質なそれは、真っ赤な目を持ち鋭い刀を携えていた。ヒッと喉から捻り出されるか細い悲鳴。その場にへたり込む鈴を見て、それは確かにニタリと笑った。


『に、げなきゃッ!!』


全身が、逃げろと警告音を鳴らした。パッと動かなかった足が動き出し、階段を駆け下り始めた。異様なそれはユラリユラリと鈴の背を追って動き始める。


タッと階段を駆け下り、のびた一本道を全力で走る。足が悲鳴を上げようと、気にして入られない。一本道を進んだ先には町が見える。


助かった助けを求めようと、町の中にいた男に助けを求めた。その男の姿は、時代劇に出てくる侍のような格好をしているが、それにつっこむ余裕は無い。


『助けてください!!お願いします!!!!』


「な、なんだお前さん!!」


鈴の必死さにも彼女の格好にも、男は驚いていたようだが彼女の後ろからやってくるモノに目を向けた、顔を青くして叫んだ。


「闇鬼(ヤミオニ)がでたぞ!!!!」


その声に、町中の住人が騒ぎ始める。助けを求めるしかない鈴を、男は引き剥がしドンッと突き飛ばした。力いっぱいにされ尻餅をつく。


男はヒィッと悲鳴を上げかけていった。え!?とあせった鈴は背後に感じた気配に、背筋を凍りつかせた。ブルブルと震えながら振り返ると、そこにはあの化け物。


捕まえたと言っているかのように口が弧を描く。真っ赤な目がギラギラと鈴を見下ろしていた。


待ってこれって死ぬんじゃないのか!?そんなの嫌なんですけど!?目を白黒させる間にも、刀は高々と持ち上げられる。


『たすけ』


成すすべも無く目を硬く閉じた。どんな人生の締めくくりですか!?!?訴えてやる!!……いや誰を!?と脳内でボケとツッコミを一人で器用にやってのける。


が、本来そんな時間は無いはずだ。助かったの??と小さな期待を胸に、鈴はゆっくりと目を開いた。