嵐を呼ぶ噂の学園② 真夏に大事件大量発生中!編

「青柳くん」


オレの後ろを従順な犬のように大人しく歩いていた星名さんが話しかけてきた。


オレの瞳には水族館が写り始めている。


オレは聞こえないふりをした。


返事をしたら、また彼女に振り回される。


そんな気がしたから。



「わたしにお礼をさせていただけませんか。お腹も空いてしまったので、ちょっと一休みということで...。いかがですか」



「別にオレはいい」



「いいですか?!良かったです!それじゃあ、急ぎましょう!わたしお腹ぺこぺこで死にそうなんです...」



オレはいいって、


OKって意味じゃねえ!


自分の都合の良いように解釈しやがって、星名湖杜は本当に本当に本当に自己チューだ。


何か一言言ってやらねえと気がすまない。


オレは口を開いた。



「あのさ...」



「青柳くん、水族館詳しいんですよね?わたし、初めてきたんです。おすすめスポット教えて下さい。ついでに美味しいものも食べましょうね」


完全に彼女のペースにはめられてしまった。


あぁ、だから


こうなるから


女は嫌いで、関わらないできたはずなのに。


どうしてオレは、自分で再び沼に足を踏み入れてしまったのだろう。


「わたし、クリオネさん好きなんですよね。ちっちゃいのに一生懸命生きてる感じが。
あと、白イルカさんも!あの子は、あのぷにぷにボディがたまりませんねぇ。
青柳くんのおすすめは何さんですか」


そんなのどうでもいいから早くこの服をどうにかしたい。


自然乾燥してだいぶ乾いたとはいえ、匂いとかベタつきとかすっげえ気になる。


つうかそれ以前の問題で、もうオレのこと解放してくれても良くね?



「あのさ...」



「はい、なんでしょう?」



びっくりした。


スルーされると思ってた。


オレはせっかくのチャンスだというのに何を言おうとしていたのかすっかり忘れてしまった。



「青柳くん、頭に海藻ついてます。少ししゃがんでいただけますか」



...?!


頭に海藻?!


早く言ってくれよ!


うわ、めっちゃ恥ずかしいじゃん。


今まで海藻乗せて歩いてたわけ、オレ...。


一気に体が熱くなった。


背中に炎がついた...みたいな。


血管が拡張して緩やかだったが猛スピードで血液が流れ出した。



「早くしゃがんで下さい。それとも海藻はファッションの一部ですか?」



んな訳ねえだろ。


オレは大人しくしゃがんだ。


星名さんの手がオレの頭に触れ、ピクッと一瞬震えるのがわかった。



「取りました!」



よくもまあ、そんなに喜べるな。


星名さんが満面の笑みを向けてくる。


...。


ほんの一瞬。


本当にほんの一瞬だけ、


胸がドクンとしたのは気のせいか?



「行きましょう」



無意識にその右手を見つめてしまうのは、



なぜだ?