あたしは赤星昴を連れてお気に入りの喫茶店に入った。


もちろん、アイスは食べ終えてから。


「マスター、いつもの。あんたは?」


「俺はアイスコーヒーで」


「ちなみにこの人甘党なんでガムシロップとミルク多めに持ってきて下さい」



ふふん。


弱みを握ったから今日は勝てそうだ。


マスターの孫がそそくさとドリンクを運んでくる。



「お待たせしました!濃い目のホットコーヒーとアイスコーヒーです。少年、背伸びしたい気持ちも分かるが、無理なら無理だと自覚して本当に好きなものを飲むということも大事だよ」



赤星昴は学園1の権力者だから、叱られるとか窘められるということがまずない。


だからこそ、こういう場所に来て年上の人から叱責されて自分の未熟さを痛感するべきなんだ。


すかしてるからこうなるのよ。


カッコばっかりつけるなよ、赤星。


とは言わなかった、というより言えなかった。


何されるかわからないしね。



「あのさ、もう遅いし手短に話して俺を解放してくれる?」


「はいはい、分かりましたよ。すみませんね」



私は周辺の空気をたっぷり吸い込み、言った。



「単刀直入に聞く。あなたは何故ことちゃんに手を出したの?」


「なあんだ、そんなこと。単に好きになったからだよ。好きな人に好きだよってアピールすることって悪いこと?」


「うん、悪い。

あんたがやることは全て罪になる。

なぜなら、あなたは過去に何十人もの女性を手にかけ、弄んで来たから。

そんなやつにあたしの大事な友達をやれない」


ふーん。


赤星昴の反応はたったそれだけだった。


何もしゃべらず、あたしの次の言葉を待っているようだった。


なんとしても論破してやらないと。


痛い目に遭ってもらわないと分からないんだ、コイツは。


被害女性の気持ちなんか、これっぽっちも分かってないから、あたしが分からせるんだ。



「じゃあ、次の質問。なんで波琉のバースデーパーティーに参加したの?」


「彼と俺の共通点は、君の友達の畠山朱比香」


「なんで朱比香が共通点なわけ?」


意味が分からない。


朱比香は赤星となんの接点もなかったはず...。


いや、本当にそう?


朱比香はDP3の一員なんだから...。



「なんとなく分かったようだね。

朱比香と俺の元カノが同じDP3だし、彼女がフラれた日、生徒会室に来たから、分かるんだ。

彼女をふったのが青柳波琉くんだってこと」


「そう、だったんだ」


「朱比香は君だけじゃなく、俺の友達でもあるから、簡単に傷つけられたら、ちょっとねえ、怒っちゃうな」



波琉、あんた、もしかしたらヤバいことしちゃったかも。


そして、今も...してる。


赤星の次の発言は恐らくあたしの予想通りだ。



「波琉くんさ、あんなに可愛いカノジョいるのに、ことちゃんに手出したんだよね」


「は?」



ウソ...。


もしや、予想以上?



「2人で2階に行った後、俺、しばらく様子を見てたんだよね。そしたらさ、彼、酔った勢いで...キスしちゃってたんだよ」


「それって...ほんと、なの?」


「信じるか信じないかは君次第。

但し、今の俺の様子を見りゃ分かるでしょ?

俺、火をつけられちゃったんだよね、それで。

俺は、ことちゃんを波琉くんに渡すつもり、
1ミリもない」



愕然とした。


想像以上の大事件に発展していた。


というか、やっぱり、


やっぱり波琉は...


ことちゃんのこと、


好きなんじゃないの?


小さい頃から波琉は自分の気持ちを言わなかった。


特に母親を失くして以降、それは悪化した。


内に秘めておくのが美学みたいなところがあってすっごくクール、いや人に関してドライだとずっと思ってた。


だけど、ことちゃんと出会ってから変わったんだよね、明らかに。


だから、やっぱり、やっぱり波琉は...。



「別に君が悩むことじゃなくない?

薄々気づいてるかもしれないし。

それか、全くの鈍感で徐々に自覚していくか。

どちらにせよ、こうなった以上俺は本気でぶつかっていくしかないんだよね。

絶対に渡したくないから、色んな人を巻き込んでも傷つけても、1番大事なものは必ず手にいれる」



あたしは意外にも真っ直ぐな赤星昴の想いに胸を打たれた。


彼を本気にさせたのが、ことちゃんと波琉。


あたしに出来ることは...見守ることだけだ。


あたしは誰も傷ついてほしくない。


でも、これが愛なら、


愛の本質だとしたら、


仕方ない。


そう、思う。



「じゃあ、そろそろ俺は帰らせてもらうよ」


「あっ!ちょっと待ちなさいよ!次で最後にするから」


「じゃあ、最後の質問、どうぞ」



あの話を聞いてからずっと考えていたこと。



「ことちゃんの双子のお姉さんについて」


「そのことね。それはちょっと俺の口からは言えないな」


「なら、あたしがあなたの言動から推測したことを聞いて」


「ま、真実かどうかはいえないけど」


「ことちゃんのお姉さんって...一條美湖でしょ?」



ふーん、とまた曖昧な反応を示す赤星。


だけど、これは、この反応は...正解だと思う。



「どうしてそう思うわけ?」


「あなたの元カノが一條美湖だから。

あの美少女をフった後に選ぶとしたら、それかそれ以上の美少女でなければならない。

だけど、ほぼ同じ顔、体型だとしたら。

後は中身で決めればいいでしょ?

湖杜ちゃんは純粋で男性経験も少なくて服従させやすい。

その上、メガネを取れば、見た目は一條美湖なんだもん。

これ以上絶好な相手いないでしょ?」