嵐を呼ぶ噂の学園② 真夏に大事件大量発生中!編

「ここがベストポジションなんだ」


「へえ、こんなところに幼稚園があったとは。地元なのに知らなかったなあ」



汐泉は懐かしそうに遊具を眺め、ブランコに腰かけた。


オレももう一台のブランコに乗り、幼少期に戻ったかのように全力で漕いだ。


どんどん高さは増して、目の前の月に飛んでいけそうだと思った。



と、その時。



ヒュー、ドドン!


ドドン、ドドン!



「わあっ!花火だ!すっごく、きれい!」


「汐泉に喜んでもらえて嬉しい」



そう。


この花火のように、


いや、それ以上に華やかで美しく輝く汐泉がここにいてくれる、それだけで十分だ。


オレには汐泉さえいれば、何もいらない。



ドン!


ドドン、ドドン!



次々にうち上がる花火。


下駄を履いている汐泉は、なかなか上に上がって来られない。


なら、オレが、


オレが汐泉を


夜空に打ち上げよう。



オレは漕ぐのを止め、汐泉の後方についた。



「波琉くん、どうしたの?」


「オレが後ろから押すから、汐泉は下駄を脱いで必死に漕いで!そしたらもっといい景色が見えるから!」


「わかった!やってみる!」



汐泉は順調に高く上がった。


花火の一部になった時、その輝きは何割も増した。


しだれ桜のような大型の花火が何発もうち上がり、地元の商工会主催の花火大会は、あっという間に幕を閉じた。


汐泉がブランコを漕ぐのを止めて静かに下がってくる。


オレは汐泉の下駄を持ってスタンバイした。


きっと、朱比香に見られていたら


「何かっこつけて、こっぱずかしいことしてんのよ!」


とかなんとか言われていただろう。


でもいい。


それでもいいから。


オレは、汐泉に伝えるんだ。



「波琉くん?」


「汐泉、オレの目を見てちゃんと聞いて」



汐泉の切れ長の美しい瞳にオレが写る。


自分でいっておきながら、見つめられると恥ずかしくなる。


しかし、こんなので照れている場合じゃない。


オレは跪き、汐泉の足に下駄を履かせた。



「オレ、汐泉が大好き。だから、オレだけのシンデレラになってください」


「も、もちろん!ずっとずっとずっと、波琉くんの隣にいるから。いつまでも波琉くんのシンデレラだから」



花火の余韻と夏の暑さがまだまだ残る午後8時。


オレは汐泉の首筋に手をやり、彼女の唇にそっと唇を重ねた。