嵐を呼ぶ噂の学園② 真夏に大事件大量発生中!編

「ちょっと待って下さい」


わたしは居住スペースである2階に設置されている冷蔵庫からペットボトルの水を出してきた。


「これ、飲んで下さい。残ったら持ち帰って頂いてけっこうですので」


「なんでこれ?」


「グラスに注ぐと怪しまれるので、これなら未解栓ですし、安全かと思いまして」


「だからって2リットルはねえだろ」


「うちにはこれしかないので」



言いながらなんか悲しくなってきた。


喜ばせるはずが最初から失敗してしまうし、色々誤解させてしまうし、カノジョさんでもないのにあれしてしまうし...。


わたしって本当にダメなやつだ。


やっぱり、選ばれなかった方でしかないんだ。


みんな分かってたんだ。


わたしがあの人のDNAを1ミリも受け継がない失敗作だって。


だからあの日、あの時、わたしは...。



「あのさ」


「はい...なんでしょう」


「なんか、ごめん」



珍しく青柳くんが謝ってきた。


さっきとは打って変わって悲しげな表情。


青柳くんが謝ること、何一つ無いのに。



「アルコール飲まされたことは許さない。けど、理由もなく、星名さんがこんなことするわけないなぁと思って。オレ、なんかした?」


「いいえ、何も」


「でも、抱き枕にしたのは謝る。マジでごめん」


なんか、


やっぱり、


やっぱり、


やっぱり青柳くんは...優しい。


ちゃんと他人を思いやって頭を下げられる人なんだ。


そんな青柳くんを友達に持てたわたしは、最高の幸せ者だ。


園田さんも赤星くんもわたしを心配してくれる。


わたし、人生の中で1番、今がいっちばん、幸せだ。


...涙が流れてきた。


頬を伝い、床に染みていく。


いつからこんなに泣けるようになったのだろう。


わたしを思ってくれる人達がいるから泣けるんだ。


ああ、拭っても拭っても、止まらない。



「ごめんなさい。お見苦しい姿を...」



...えっ。



「あのぉ、青柳くん?」


「オレの人生を背負わせたから、オレもお前を受け止めなければならない。友達になったんだから、もう、1人で...1人で抱え込むな」



青柳くんはわたしを優しく抱き締めてくれた。



――ことちゃんが友達としての愛を示したら、波琉も愛を返してくれる。



園田さんに言われた言葉を思い出した。


わたしは今、愛を返してもらえているのかな。


それなら、


それなら...


嬉しい。


今までどれだけ愛を与えても、返してもらえなかったから。


愛が返ってくることが、とてつもなく嬉しい。



「星名...ありがとう」


「あの...今、何と?」


「オレは一度言ったことは二度言わないって前にも言ったはずだ。だから、言わない」


「まあ、いいです。それより...」



言おう、今。



「お誕生日おめでとうございます」