オレが話し終わるやいなや、星名湖杜は泣き出した。


大粒の涙が頬を伝い、ぽとりと落ちてぼろぼろの畳に染みていく。


なんか...悪いことしたな。


オレが喋ってしまったことでオレの人生を半分背負わせてしまった。


悩みを共有しあって互いに支え合いながら生きていこうなんて、そんなこと、これっぽっちも考えていない。


それどころかこれ以上は関わらないでくれとまで思っているのに、どうして...。


どうして、コイツに話してしまったんだろう。


誰にも言わずに、言えずに来たのに、


どうして、


どうして星名湖杜は、


オレの心にノックしてオレに開けさせてしまうんだろう。



「青柳くん」


「あのさ...」


ごめんと言おうとしたら、アイツの左手で口を塞がれた。



「言おうとした言葉、絶対いっちゃダメです」



星名湖杜は口から手を離すと、勢い良くオレに抱き着いてきた。


騒ごうとしても、薄い壁一枚で隔てられているため近所迷惑を考えると大声を出せず、どうにもしようがないまま彼女の腕の中にうずくまっているしかなかった。


ただし、イヤミは言ってやろうといつもの調子で言った。



「やっぱりお前は遠慮なしだな」


「わたしは...ずけずけ来ないとらしくないと言われそうだったので、自分のしたいことをしたまでです。青柳くんに、もう誰も失ってほしくないから、わたしがここにいると証明しているんです」


「だからってこれはまずくない?オレ、一応カノジョいるけど?」


「いようがいまいが関係ありません。わたしは青柳くんの友達として存在しているんですから」



友達友達ってオレ、認めてないけど。


つうか、コイツの考える友達ってこういうこと平気でする関係なわけ?


やっぱり、星名湖杜はヤバイやつだ。


なんて思いながらも、


なぜか、


なぜか、


コイツに抱かれていると


心が暖かくなって安心してしまう。


きっと亡くなった母の温もりと似ていて、


父のような真っ直ぐな心があってオレに真正面から突進してくるからだ。


コイツといることでオレがオレでいられる。


オレはオレを見失わずに済む。


それなら、


こういう女なら、


悪くないかもしれない。


友達としてなら...


受け入れてやるか。



「あのさ」


「はい...何でしょう」



ぐすぐすと鼻水やら涙やら流しながらオレの胸に顔を押し付けて来るもんだからオレのお気に入りのシャツはびしょびしょになってしまった。


初めて給料もらった時に買ったシャツだから本当ならマジ切れしているところだが。


「友達になっていいから...オレを濡らさないでくれる?」



そう言った途端、鳴き泣き声がピタリと止んだ。



「...いいんですか?」


「二度も言わせんな。オレは一度言ったことは二度言わない。聞こえなかったなら残念だな...」


「いえいえ、聞こえてます!わたしは今日から青柳くんの友達です!喜んで友達になります!」


「痛い!いい加減離れろ!オレはお前のハンカチじゃない。オレで涙拭き取るの、止めろ!」



抵抗しても無駄だ。


コイツはそういうヤツだ。


オレの言ってることなんて聞かないし、自分のしたいことは何があってもする。


どんなリスクがあろうと、やると決めたことはやるんだ、星名湖杜は。


オレはコイツにオレの人生を背負わせるようなことをしてしまった責任を取る。


引き金を引いたのはオレだから仕方ないな。


星名湖杜、


後悔させんなよ。


お前を友達にしたこと。