水性のピリオド.



随分と遠回りをして、見知った通りに出たところで携帯を取り出す。

岩井くんの連絡先をメッセージ履歴とともに削除したその指で、ちがう番号に電話をかける。

耳には当てずに胸の前で持ち構えた画面はいつまでも切り替わらない。


あと一コールで出なかったら、今日はもうやめておこう。

そう考えている間にもコール音は振り出しに戻る。

あと、三コール。それで出なかったら、今日だけじゃなくて、これからも言わずにいよう。

そう決めた。大切な決断、一大決心、こんな聞き慣れた音に託すものじゃないって思うんだけど。


『……なずなさん?』


漠然と、この電話は繋がらないんだろうなって半分諦めて、ぼうっとしていたところに名前を呼ばれたから、誰もいない道の真ん中でひとり、びくりと肩を震わせた。


「春乃くん。今から会えない?」


こんなことを言うつもりじゃなかった。

電話口で簡単に済ませて、次に学校で会ったときの春乃くんの反応まで頭の中に描いていたくらいなのに。

会いたいって思ってしまった。

それが無性に悔しくて、くちびるの内側を軽く噛み締める。


『え……と、どこに行けばいいですか』


「学校でいい?」


『わかりました。今から行けばいい?』


「うん。待ってる」


言い終えて、返事も待たずに通話終了ボタンを押す。

深く吐き出した息に色のつく季節にはまだ遠い。


春乃くんの方がどうしたって時間がかかると思っていたから、遠回りのしようがない道をどうにか時間をかけて歩く。


学校の正門が見えてきたとき、足を止めそうになった。

地面と引っ付いて離れたがらない足裏も持ち上げて、唇を噛み締める。

気を抜いたら、きっと泣いてしまう。