「岩井くん」
「ん?」
「出会い方がちがったら、わたし岩井くんのこと好きになってたかもしれない」
「そういうこと言う?」
わかってるよ、言わない方がいいって。
だってこういうの、ありきたりだもん。
でも、よくある感情をわたしも持てたんだって、ちょっと感動した。
「一週間もいらなかったね」
「最終目的達成したからな」
「前倒しにしたかったから連れてきたの?」
面倒な頼まれごとだっただろうから、さっさと終わらせたいと思われていても仕方がない。
「まあ」
煮え切らない返事。
だけど、そういうものなんだろう。
ズキズキ、ひりひり、ジンジン。
節々が痛い。色んな箇所に、ちがう感じの痛み方。
それらを全部我慢して、横たえていた体を起こす。
帰るね、とベッドの縁を背に床に座る岩井くんに言うと、元気でなって言われた。
これで終わりって意味なこと、ちゃんとわかった。
身支度を整えて部屋を出ようとしたとき。
「なあ」
何か声をかけられるか、かけられないか。
半々だと思ってたから、驚かなかった。
「やっぱ、なんでもない」
引き止める言葉が続かなかったことに、安堵した。
同時に落胆もした。
「ありがとう、元気でね」
廊下からドアを閉め切る瞬間まで期待していたし、玄関を出たあとも少しだけその場に留まった。
岩井くんが追いかけてくることはなく、何となくカフェの前を通りたくなくて、知らない道を歩く。



