水性のピリオド.



触れ合っていた場所がすべて離れてしまうかと思ったとき、見計らったように岩井くんがわたしの手を取った。

絡めはしないし、徒歩の弾みで解けてしまいそうな手をわたしからしっかりと握る。

そこでハッとして岩井くんを見ると、片方の口角を上げて悪い笑いをしていた。


これ、絶対にそう仕向けられた。

どのリアクションがツボに入るかわからない。

なるべく平静でいよう、と意気込んで手を引かれるままに岩井くんについて行く。

足が向いたのは、わたしの家や中学校方面ではなくて、線路沿いの道だった。

車道側が岩井くんで、狭い歩道を並んで歩く。

前か後ろから人や自転車が通りかかれば一列になって、そのときだけは繋いだ手も解けるけど、すぐにまた結ばれる。


車の走行音は気にならないけど、公園のそばを通ったときに聞こえる子ども達の声にいちいち緊張してしまう。

膨らんで、縮んで、また膨らんで。

そうして落ち着く頃に別の公園に差し掛かる。


だんだんと視線が下がっていって、白線と隣を歩く岩井くんの足元だけがついてくる。

繋いだ手に縋るように力を込めても、岩井くんは同じものを返してくれない。

その代わりに、もうひとつ公園を行き過ぎた後、曲がり角でつま先の向きを変えた。


「ここ」


「え……?」


ずっと下向いていたせいで、看板に気付かなかった。

普通の家だと思っていたけど、目の前にある建物は1階の前面がほとんどガラス張りになっている。

ツタのようなデザインが下半分に施されたガラスの向こうには、観葉植物とカウンターが見えた。