「考えは変わらなかったか?」
やっぱり、それだよね。
わたしが何も言わないのに、そうやって確認をしてくれる。
優しさなのか、ずるいのか、面倒なのか、わからない。
岩井くんがわたしのむちゃくちゃな要望に付き合ってくれる義理なんてどこにもなくて、男性の考えなんてろくにわからないけど、女の子と成り行きとはいえこういう風になっちゃうこと、どう感じるんだろう。
勝手に岩井くんにとっての損得を決めつけるのは良くないから、もうぜんぶ、考えることは放棄した。
昨日、岩井くんはいいよって言った。
それがすべてだ。
確認も、もうこれで終わりにしようね。
「よろしくお願いします」
岩井くんが今の今になってまで逃げ道をひとつ用意してくれたように、わたしも同じことをした。
差し出した手を岩井くんが取ってくれたら、もう何も言わない。
「おう。よろしく」
たぶん、躊躇う間もなかった。
即座に繋がれた手はそのまま解けずに引っ張られる。
土曜日の昼下がり。
肩越しに見えた岩井くんの背後には、遠くに人の姿が見えたけど、構わずにその胸に抱かれた。
ジャージの生地が頬に掠れてナイロン袋を擦ったときのような音が耳に入り込む。
岩井くんの胸の音はずいぶんと穏やかで、こんなことには熟れているように思えた。
その点、わたしはどうだろう。
ぎこちなく動かした手は中途半端に岩井くんの腰に添えて、勢いのままにぶつかった頬はつぶされかけている。
足は片方だけが前につんのめって、不格好なことこの上ない。
「くすぐってえ」
「ご、ごめん」
「届くところまで腕回せ。服掴んでいいから。足も楽なようにして、揃えたきゃ揃えろ。背伸びするな」
腰をさまよう腕は感覚でわかるとして、わたしの足元まで見えているのか。
アドバイスはくれるくせに一切拘束は緩めようとしてくれない。
こんな往来で抱きしめられたことを咎める余裕もなく、あたふたと岩井くんに言われた通りにしていく。
「あ……」
両足の隙間は自然に開いて、ヒールをぺたりと地面につける。
腕は限界まで伸ばして広い背中を掻いたあと、シワにならない程度に布地を掴む。
背伸びをやめたおかげで首元にも余裕ができて、ひっついた頬が離れると岩井くんを見上げられるようになった。
「やればできるじゃん」
下から見上げるアングルにじいっと見入っていると、岩井くんの腕が緩くなっていった。
一瞬遅れて、わたしも背中に回した腕を解く。



