これからの季節はとても憂鬱だった。
唯一の味方である電気毛布をかたつむりみたいに背負って登校するわけにはいかない。
セーターなんて気休めだし、膝掛けが守ってくれるのはせいぜい下腹と膝までだ。
「冬季休業したい……」
「春まで冬休みってことですか?」
「うーん、さすがにそれはだらけそう。こっち側に戻ってこられなくなる」
自分の性格は自分がいちばんわかってる。
春まで休みだなんて、冬眠でもしない限り家で好き勝手すごして怠惰な生活を送るんだ。
復帰するのが大変なのは目に見えてる。
「あの、冗談抜きの話なんですけど」
突然、春乃くんが眉間に三本シワを寄せて考え込む。
とても言いづらそうに口を開くけど、その第一声はわりと容赦ない響きをたたえていた。
冗談って、そんなはっきり言わなくても。
「冬のあいだ、ここにくるのやめます?」
「え……」
「だって、ここ寒いし、帰りも暗い時間になると冷えます」
どこまでもわたしを案じての提案なのに、なんだか面白くない。
返事はせずにくちびるを尖らせて見せる。
「会えなくなってもいいの?」
「先輩の体調の方が大事です」
「寂しくないの?」
わたしは会いたいし、会えないと寂しいよ。
そう言いたかったけど、ひとまず飲み込む。
長机に腕を置いてそのあいだに顔を伏せると、隣に座っていた春乃くんが身じろいだのか椅子がギシリと軋む。
体温が隣接することもなく、手が伸ばされるわけでもない。
流されやすくて、照れ屋で、単純思考な春乃くんだけど、安直ではなかった。
けしかけたら簡単に釣れるわけでもない。
しっかりとそういった線引きをしてくれることで、保たれている関係でもあるのだと思う。
「寂しいですよ」
「そっか。……うん、そっか」
声に喜びの色がつく。
ちがう伝わり方をしていませんように、と願う一方で、このわずかな差に気づいてほしかった。
「先輩」
「んー?」
「おれが先輩を好きって言ったら困りますか」
そうだね。とても、困る。
顔を伏せていてよかった。
懇親の困り顔を春乃くんにお披露目するところだった。



