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制服の移行期間が終わって、校内を歩く人はみんなブレザーを羽織っている。
完全移行まではシャツで廊下を歩いてもある程度先生も目を瞑ってくれていたけど、今はもう一歩でも教室の外に出るとどこからともなく声が飛んでくる。
何度注意されても飽きずにシャツで廊下に出ていく男子の言い分としては、トイレくらいいいだろ、らしい。
「どうなの、春乃くんとしては」
待ち合わせ場所を変えてから二週間。
なぜかわたしとハルノくんは毎日ここに来ている。
あまり解散が早すぎると校内に生徒が残っているから、短くて三十分、長くて二時間近く滞在することもある。
グラウンドが校舎を挟んで向こう側にあるから、人に見つかる心配が文化部と居残り組に限られていてよかった。
「ちょっとくらい見逃してくれたらいいのに、とは思います」
「春乃くんはどうしてるの?」
「おれはブレザー脱がないんで。寒いの苦手だし」
そう言って両腕を抱いた春乃くんのブレザーの下にはセーターが見え隠れする。
本当は、セーターの着用はまだ許可される時期じゃないんだけど、春乃くんはいつも持ち歩いているらしい。
この空き教室に来るとまず最初にブレザーの下にセーターを着込む。
ほうっと息をついて顔を緩める姿を見ていると、寒がりなんだろうなってことは簡単に見当がついた。
「先輩は暑がりっぽい」
「そうだね。暑がりで寒がりだよ」
「いいとこ取りだ」
「いやいや、こんなの貧乏くじだって」
どこもいいところなんてない。
どちらも持っていたって迷惑なだけの体質だ。
「寒いの苦手だけど、わたし暖房が苦手なんだよね」
「なんで? 肌が乾燥するとか?」
「春乃くんにそんな女子っぽいこと言われたら困るんだけど……頭痛くなるの。喉もすぐやられるし」
「あ、なるほど」
本当に、そういうことを春乃くんに言われたらわたしの女子としての面目が立たないから、やめてほしい。
これで冬に特別効く保湿の方法なんて語り始めたらびっくりだけど、そこまで期待には応えてくれなかった。
「それじゃあ、授業中はずっと気分が悪いってことですか? 大丈夫?」
「わたしの席窓側だから、ちょっと開けてるの。前後と横の席の子にブーイング食らうから、換気みたいな感じ」
「あー……なんかいい方法あればいいんですけどね」
「そんなのなくていいよ。寒いし、暖房はありがたいもん」
強いて言うのなら、頭痛の対策がほしいくらいだ。
寒いのも暑いのも苦手、冷暖房器具には体調不良。
年中、気候に対してはため息をつきっぱなしな気がする。



