一通りの草むしりを終えたあと、自販機で大塚先生が飲み物を買ってくれた。
わたしはスポーツ飲料、春乃くんは炭酸。
ひと息にあおるだけでも、春乃くんはペットボトルの半分ほどの量を一気に飲む。
プリズムのような煌めきが高く持ち上げられたペットボトルの中に揺らめいて、眩しさに瞼を伏せた。
大塚先生は道具を片してそのまま職員室に戻っていった。
正門を出たところで、ふたりの足が真逆を向く。
「もしかして、川沿いに行くの?」
「ううん、川沿いっていうか、その手前すぐのところが家だから。先輩は?」
「このまま大通りを歩いて行って……歯科があるのわかる? その近く」
「あ、わかります。じゃあ、結構近いんですね」
勝手な想像で春乃くんは電車通学だと思っていた。
もしくは自転車。だけど、駐輪場には向かわなかったからその選択肢は消えて、電車一択なものだとばかり。
駅に向かうのなら大通りがいちばんの近道だ。
自然と、途中までは一緒にいられると思い込んでいただけに、少し落ち込んでしまったのが春乃くんに伝わったらしい。
「送っていきます。もう暗くなるし」
「は……え? まだ、全然」
明るいよ、って言おうとしたところで、春乃くんが自身のくちびるに人差し指を置く。
しい、と歯の隙間から息の音が聞こえて、続く言葉を飲み込む。
「ね、先輩。行きましょう」
「あ、ありがとう」
わたしの真横に並んだ春乃くんが一歩足を踏み出すのを真似るように、おずおずと右出しを前に出す。
それについていく左足の動作が我ながらとてもぎこちなくて、春乃くんの隣にいると歩き方も忘れてしまうのか、と苦笑をこぼすしかない。
わたしの右手と春乃くんの左手は触れそうで触れなかった。
二度か三度、手の甲や爪がぶつかり合ったけど、絡まることも捕まることもない。
シャツの下の肌がざわついた。
舌に炭酸をのせたときのようなヒリつきが右半身をずっと支配している。
くすぐったいような、心地良いような。
これがずっと続いてほしいような、はやく途切れてほしいような。
理解しきれない感情を持て余して、困り果ててしまう前に春乃くんを見上げて助けを求めた。
たとえば、たすけて、と声に出してみたところで、困らせてしまうだけだ。
春乃くんからしてみたら、ただわたしに見上げられているだけの状況では。
「どうしました?」
そういう問いかけがかえってくるのは当然だった。



