靴箱の手前で手を離して、脱ぎっぱなしの靴を迎えにいく。
むしろ、待っていてくれたのは靴なんだけど。
いつもは無造作に足を突っ込んだけの靴にゆっくりとつま先を通していると、靴箱をふたつ挟んだところから春乃くんが出てきた。
わたしが踵を直しているあいだにこちらに駆け寄ってきて、ふたりで同じ昇降口を抜ける。
普段は右肩にかけたスクールバッグを左肩にのっけているせいで、何度もずり落ちそうになった。
手を添えながら正門に向かうと、素手で雑草をむしる大塚先生の背中が見えた。
「大塚先生」
花壇を挟んで向かい側から声をかけると、わたしと春乃くんを見比べて目を細める。
「会えたか。よかった」
「うん。あのさ、大塚先生。花壇に向いてたら後ろを誰か通っても気づかないんじゃないかな」
「ああ、たしかに」
春乃くんなら大塚先生に一声かけるだろうし、結果的には問題なかったけど。
ちょっと頼りないことを指摘すると、大塚先生は悪びれる様子もなく笑った。
真っ直ぐに帰ろうと思っていたけど、何となく草むしりを手伝うことにした。
草まけ知らずの大塚先生に借りた軍手を春乃くんの片方ずつ分け合う。
西日が春乃くんの横顔の輪郭をぼやけさせて、眩しさに目を細める。
手を止めたわたしに気づいて春乃くんがこちらを向いた。
どうして見つめられているのかもわかっていないくせに、首を傾げてはにかむから、反応に困る。
曖昧に笑みを返すと、春乃くんの軍手をつけてない方の手が伸びてきた。
頭に行き着きそうだと予想した手は、なぜかわたしの頬に触れる。
柔らかくつまんで引っ張るような仕草のあとで、指先を擦り付けてくる。
「先輩、なんでこんなところに泥つけるの」
肌を痛めつけない程度の力で頬を拭った指先が離れていく。
見ると、人差し指の先に擦れた泥がついていた。
「な、なんでだろ、ごめんね」
「いいえー」
ついた泥をそのままに草むしりを再開。
なんとなく、そばにいるのが恥ずかしくて離れて作業を続けた。



