水性のピリオド.



去年、おじいちゃん先生の古典の小テストのとき。

前から回すんじゃなくて一枚一枚おじいちゃん先生が配って歩いたプリントに、桃色の付箋が貼ってあった。


【放課後に正門横の花壇に来てください】


やたらと厳ついにっこりマークが添えられた手書きのメッセージ。

まるで告白でもされるみたいだ。

白髪頭の優しい顔立ちのおじいちゃん先生だから、万が一にもそんなことはないんだけど。


プリントを回収されるときに剥がした付箋をひらひらと指に挟んで振っていると、目が合ったおじいちゃんが笑い皺を深くして破顔した。


なんとなく、無視はできなくて放課後に花壇に行ったら、ジャージに着替えたおじいちゃん先生がいた。

土は自分が触るから、水やりをお願いします、って言われて、またなんとなく流された。

手伝おうかって言ったら、制服が汚れるからいいよって。

なんだかよくわからないまま手伝わされているけど、おじいちゃん先生はやっぱり優しいなって思った。


日が沈むころになって『どう? 園芸部』って聞かれたときは、これおじいちゃん先生の趣味じゃないんだって失礼なことも考えてしまった。


毎日来られなくてもいいよ。

たまに顔を出すくらいでいいよ。

草むしりは頼まないから、たまに花の写真を撮ってくれませんか?


そんな簡単なお願いごと、引き受けないわけにはいかない。

二つ返事で了承して、気づけば一年が経っていたってわけ。


黙って話を聞いていた春乃くんの表情で、何を言い出すのか予想がついた。

キラっと目が瞬く。嬉しそうに、楽しそうに。


「おれも! 古典の小テストで、花の形の付箋が貼ってあって、それで!」


「うん、あとはわたしと一緒でしょ」


「はい!」


至近距離で大声出さないでよ。耳が痛いよ。

だけど、そのおかげで心臓の音がかき消された。

わたしもちょっと落ち着いたみたいだ。