船着き場には券売機はなくて、乗船券売り場の職員さんとまた参考書の話をした。

大人は勉強の話題を出せばだいたい「凄いね」「えらいねぇ」とご機嫌で、私が嘘をついているだなんて、少しも疑わないみたいだった。

こういう時だけは、「偉い先生の娘」で良かったと思う。


しばらく海を眺めていると本土から人を乗せた船がやってきた。

乗組員より乗客の方が少ない船だ。

それに合わせるように、本土へ向かう乗客が集まり始める。

参考書の話を何度も繰り返し、おじいちゃんおばあちゃんたちは皆、本土の病院へ行くのだと聞いた。

思ったよりもたくさんの人が待合いに集まって、私と純は知り合いになれないまま船に乗った。