渋谷のライブハウス「club RAINBOW」の入り口は、

オープン前なのに女の子たちの行列でにぎやかだ。

おしゃれした女の子たちにまぎれて、

顔の半分が隠れるくらい、ニット帽を深々とかぶり、大きなサングラスをかけた私。

少し離れた場所にある自動販売機の陰にじっと立って、会場のドアが開くのを待っている。


今日は、ずっと楽しみにしていた、五十嵐蒼のアコースティックライブだ。


それなのに私は、むこうで笑い声を上げている女の子たちのようには、
はしゃぐことができないでいた。

「かーや、さっきから震えてるわよ、
 大丈夫?」

ポンちゃんが振り返って苦笑した。

ポンちゃんは、人ごみから私の姿を隠すために、私の目の前に背中を向けて立っている。

私のマネージャー・堀田マモル、通称ポンちゃん。

女の子みたいな口調にそぐわない、男らしい広い背中をしている。


「だ、だって今日は、
 最前列で、あ、あおいくんを観るんだよ」


声を出したら、あごが震えて歯がガチガチと鳴った。

ポンちゃんは、あきれたようにため息をついて言った。

「何言ってるの、
 最前列だろうが一番後ろだろうが、
 アーティストにとっては
 みんな同じファン、
 でしょ?
 そんなこと、本業のかーや自身が、
 一番知ってると思うけど?」