「浴衣が良かったな〜」

待ち合わせ場所で会ったならを見て開口一番に笹崎が言う。

「浴衣って大変なんだよ。」
「なんでなんで。」
「着付けとか知らないし。」
「着るの大変なんだ?」
「しかも昨日の今日で準備できないでしょ。」
「そういうもんなの?」
「家にかわいいのないし。」

ふーん、と言って笹崎がならの隣を歩く。

最初予定していた公園は花火大会の開始1時間前にもかかわらず、すごい人だった。

「どうしよっか?」

笹崎が聞く。

「橋の上にする?」
「じゃあ行くか。」

そう言って、笹崎はとても自然にならの手を取った。
あ、手。
ならの頭は真っ白になる。
あまりにも自然に繋いできたので、全く心の準備ができていなかった。
一気に耳まで熱くドクドクと脈がなる。
気のせいか、笹崎もいつもよりおとなしい。

橋の上も全く前に進めないほどに、すごい人混みになっていた。

「やっぱりこっちもかー。」

笹崎が周りを見渡す。

「ちょっと他の場所にしてもいい?」
「うん、いいよ?」

ならがそう返事をすると、笹崎はギュッと手に力を入れて人混みに逆らうように進んだ。

手が離れないようにならもつい手に力が入る。
人混みを抜けると、パッと視界が広がった。

「ちょっと歩くけどいい?」
「?うん、大丈夫。」