とても長い飲み会が終わった。
それぞれ店の外に出ると、矢幡さんがみんなに聞こえるように言う。

「二次会行く人は私についてきてください。ここで帰られる方は気をつけてお帰り下さい。今日はお疲れ様でした!一旦ここで解散!」

みんながパッと散らばる。
ならも、もうここで帰る予定だった。
矢幡さんがならの姿を見つけて小さめの声で言う。

「笹崎さん、門野さんを駅まで送ってってあげて。」

それは、笹崎とならの2人にしか聞こえないように気遣ってくれたような声のボリュームだった。
酔っ払っている他のメンバーには恐らく聞こえていない。
笹崎だけが「はーい」と反応する。
そういえばまだ連絡先を交換していなかった。
よく2人で話をしていたのに、なぜか突然ドキドキする。

「駅行けばいい?」
「うん」
「終電何時?」
「12時10分」

笹崎が時計を見る。
23時30分。
笹崎はすぐ近くの公園を指差す。

「ちょっと寄っていい?」
「いいよ。」

2人は誰もいない公園に入った。

ベンチに腰を下ろす。

「酒飲んだ?」

最初に笹崎が口を開いた。

「うん。カクテル5杯くらい。」
「ああ、かわいいやつね。」

少し笹崎が小馬鹿にしたように言う。

「なんだっけ、最初に飲んでたやつ。プルプルゼリーの・・・」
「プルプルコラーゲンゼリーのカクテル。」
「そうそう、ジュースかよって。あんなん飲んでても酔わないでしょ。」
「いや油断して酔うよ、結構。」

意外と会話がスムーズに続く。

「あれで美肌になるのかな。」
「美味しかったけどなー」
「本当に彼氏いないの?」
「ん?」

笹崎が唐突に話題を変えてきた。

「本当に彼氏いないの?」

同じテンションで同じことを聞く。

「なんで。いないって言ってるじゃん。」

どういうテンションで返せばいいのか困ってしまう。

「いや、門野さんかわいいからいてもおかしくないよ。」
「なんなの、まったく。」
「うわー照れてる。」
「そりゃ困るよ、言われ慣れてないし。」
「俺も言い慣れてないよ。」
「嘘だよ、高校の時から女子と仲良かったし慣れてるよ。」
「俺、簡単に『かわいい』って絶対言わない。」

まったく。
どう返していいのか分からなくなる。
笹崎は、高校の頃から学校内で目立って、男女関係なく仲良くて、ムードメーカータイプだった。
自分には無縁だと思っていたのに、まさかこんな展開になるとはビックリだ。

「まあ、いいや、行くか。時間だもんね。」

ならが返答に困っていると、笹崎はそう言って時計を見ながら立ち上がった。

「もう少し話していたかったけど。」

と言って、まだ座ってたならに視線を投げる。

「帰ろ。どうせ明日も一緒なんだし。」

ならは少しぶっきらぼうにそう言って立ち上がった。

「うわー何その言い方ー。感じわるー。」
「帰る帰る帰る。」
「待てって。ねえ、ならちゃん、待てって。」

笹崎は半ばふざけた調子でならの隣を歩く。
私は笹崎のこと好きなんだろうか。
一緒にいるとたしかに楽しいし、嫌いじゃないけど、好きなんだろうか。

好き…

ふとならは思い出しそうになる顔があった。
が、ここで思い出してはいけないような気がして急いでかき消す。
何故か過去に戻るような気になってしまうのだ。
話したこともないのに、私はなんで今も思い出しそうになるんだろう。

時間に余裕を持って駅には到着した。

「気をつけて帰れよ。じゃーな。また明日。」

笹崎は思いの外あっさりと改札前で見送ってくれた。

「ありがと。じゃ、気をつけて。また明日。」

笹崎が軽く頷いたので、ならは手を振ってホームに向かった。
直前に連絡先も交換したし、明日も一緒だ。
なんだか少しドキドキしていた。