稲荷と神の縁結び

きっと君主様は、一生そんな思いに気付くことはないだろう。
一生あの表情を見ることはないと思うと、少し惜しい気はしている。

「………って定時過ぎましたね。お疲れ様です」

私は六時十五分を過ぎているのを確認すると、帰る準備を始める。


「お疲れ様です」
そう手を降る有沢さんにお辞儀をして、私は足早にオフィスを後にする。


うちのオフィスは、本店の四階にある。
繁華街の中でもひときわ目立つ、どっしりと構えた下屋風の瓦屋根が印象的な建物。
ここに彩馨・かおるやの両店舗と両オフィスが入居しているのだ。


両社員は仲が悪い……ということは全く無く。
ただ『業務を分けるために会社を別にした』というだけなので、むしろ団結力は固い。特に上下関係も確執もないし、むしろ行ったり来たりの持ちつ持たれつつの関係だ。

私は裏口のエレベーターから一階に降りて、ちょうど居合わせた彩馨の店員の人に挨拶をして、急ぎ足で駅に向かった。