途中のあの和菓子屋の列が邪魔だな。でも美味しいから気持ちはわかるけどな…なんて思いながら。

そして大通りに差し掛かって信号待ちをしていた、その時だった。


目の前に‐一台の車が止まった。
高級外車の黒いポルシェ。ゆっくりと窓が開き、手を降る人物。その人物に……私は腰を抜かす程、驚いた。


「馨様!!」

「久しぶりだね。去年の合同表彰式以来かな?」

そう、久しぶりに見る馨様。
黒いジャケットにハットを被った姿は、一年前の引退した時と変わりがない。


「お久しぶりです。お体の様子はいかがですか?」

「実はね、先週まで入院していたんだよ。今は一時退院中でね」

「そうでしたか……」

「だから今の間にね、免許を返納しようと思ったんだ」

「そうなんですね……」

「だから、この車を運転するのは今日が最後なんだ」

そう言いながら、目を細める馨様。
ずっと愛用していた車なんだと、そう耳にしたことがある。