仁がドーナツを買うのをほっぽり出してあたしを助けに行ったせいで、文句連発の彼女をなだめつつ、無事に3時間半の買い物を終えたあたし達はホテルにようやく到着した。
35階建の高級ホテルで、あたしたちが滞在するのはその30階の一室だった。
スイートの広々とした、空間。
「きっれー!」
子供みたいに窓に走り寄る彼女は、まだまだ幼さが残る。
「子供みてえだな」
「うるさいの。いーじゃん、まだ子供なんだもん」
「もう高校生だろ」
「…高校生だって子供だし」
「じゃあ精神的に子供だな」
「子供子供言わないでぇ!」
戯れて笑っている彼女たちに何となく居場所を失った気分だった。
もともとそんなものないのに。
「あたし、お手洗い行ってくる」
誰が聞いてることもないのに、そっと宣言してトイレットを探すと。
「トイレは突き当たり右だ」
なんだか優しい声がして、思わず振り返った。
「…えっと」
その先を続けることまで考えてはいなかったけれども。
「なんだよ」
交わった視線にわけもなくさっきの心臓のドクドクが戻ってくる。
「…なっ、なんでもない。ありがとう、行ってくる」
そう言って、部屋から姿を消した。