それが一体誰のことを指しているのか、あたしは分かっていた。
だけど分からないフリをした。
「あれって?」
「あれだよ。ディビッドに母親殺されたやつ」
ああ、まさかそういう形で指定してくるとは思わなかったわ。
てっきり、獅獣の名を使うと思っていたのに。
貴方からその名を聞けたら面白いと思ったのに。
「どうしてそんなことを?」
「だって、全然理性的じゃないじゃん。ディビッドの挑発にすぐ乗っちゃうあたり、馬鹿だなって見てた。それに、キミは理論派で、感情的には動かない人でしょ?」
あたしの目を覗き込む。
光の無い目が、細くなった。
「だって、ロボットちゃんだから」
隅々まできっちり報告されているのがよくわかる。
「その呼び名、よく知ってるわね」
「だって、南の他にも見張りをつけてたし、キミが一人暮らししていた頃住んでた同じマンションの隣の部屋借りてたし、ディビッドを通してキミが一時期いた…えっとMargaretの防犯カメラも、手に入れてたもの」
一人暮らししていた頃のマンション…?
…ああ、だから南が簡単にあたしの部屋まで来れたのか。
「質問に答えて。どうしてあれがいいの?」
どうやらはぐらかすことは不可能のようだ。
どうすれば、彼が機嫌を悪くしないか。
考えた先に出た結論はこれだった。
「言葉で表すことはできないわ」
「は?」
ああ、この人は。
何故かは分からないけれど、そういう愛を知らないのね。
「だけどとっても愛しいの」
きっと、理解なんてできないのでしょう。
好きなところなんて、正直数えきれない程あるし、とても言いきれない。
それをひとつひとつ説明したって彼は分からないだろう。
そうしているうちにきっと目的地には着いてしまうだろうし、多分そこで待っているのは、あたしの死だ。
死んだら終わりだ。
せめて、聞きたいことくらいは聞かせて頂こうじゃないか。
だからそのためには、この言い方をするしかないと思ったのだ。



