蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「…んなわけないでしょう」


「貴方が知らないだけだ!貴方が、…愛されていた貴方が知らない話だ。貴方ばかり優遇されて、貴方ばかりいい子だと呼ばれ、大学を勧められ、誇りだと言われる。…僕はなんて言われたか、貴方は知っているんですか?役に立たないと、面倒だと、そう言われていた僕が…僕の気持ちなんか、貴方は知らないはずだ!」


哀しいと叫ぶディビッドに、佐々木さんはため息を吐いてから。


呆れたように笑った。


「…お前も、母さんと似ていますね」


「あの人に似てるなんていわれたくない!」


「似ていますよ。素直じゃないところも、不器用なところも、なんだかんだ、…愛があるところも」


ディビッドの絶叫も、佐々木さんは全く気にしていないようだった。


そんなのどうでもいいようだった。


「いいですか。よく聞きなさい。貴方が殺そうが殺さまいが、関係なく母さんは近いうちに死んでいたと思います」


「…は?」


「膵臓がん。ステージⅣ。末期でした」


「…え、えっ」


彼は堪らず、目を見開く。


「知らなかったでしょう。言わないようにわたしも口止めされていましたから」


「なんで、そんな大事なこと…」


「貴方は自分の母親の性格を覚えていないのですか?」


「…っ」


下唇を噛む、その姿はもう覚えていることを暗に示していた。


「勝ち気で強がりで、つい、要らない一言を言うような人間が、器用だと思いますか?」


「…そ、れ、は」


「実の息子だからこそ、言えないことがあるのだとわたしは思います。もちろん、母さんのあの選択は間違っていたと思うし、あの時素直に従ったわたしも間違えていたと思います。でも、…」


佐々木さんは、歩く。


ディビッドの元まで歩く。


そして目の前にたどり着いて、何かを差し出した。



「母さんの気持ちだけは知っておいて欲しいものです」


「…これ」


「通帳です。貴方名義で作られています。あの人が、何のために必死で働いていたか、貴方は知らなきゃいけない」


押し付けるように手渡されたそれを、ディビッドがゆっくり開くと。



大きな目を更に大きく見開いた。


「……これは」


「それが貴方に生きて欲しいと思う、母親の愛情の印のように、わたしには思えてならないのですよ」



どれくらいの額がそこに記されていたか、あたしは知らない。



だけどそれは。

 
確かに見える、愛の形だった。