多分少し、過去に取り憑かれているだけ。
どれだけ重くて暗い過去だとしても。
精神状態的に不安定になりやすいわけではない。
父親と会うとそうなるだけで。
いつも会う翔が本当の翔だって、あれが通常運転だって、今そう思った。
あたしが会っていたのは、上辺の優しい人ではなかったんだ。
彼は優しい。
優しい人は強い人もいるけど、脆い人もいる。
彼は圧倒的に後者だっただけだ。
今の彼も、間違えなく彼の中にいる感情のひとつだから。
だから、いいの。
これで。
このやり方が今の翔には1番あっている。
「だって和佳菜が弱っちゃってるところ、見たことないんだもん」
「割と見せているような気がするけど」
「俺らには見せてない。見せてるのは、仁だけ」
それは少し納得できる。
弱味は見せない主義だ、基本的には。
あたしの性格的に御涙頂戴は、疲れるだけだ。
「だから、俺も見たいなあって思って。ねえ、どうやって見せてくれる?泣いてくれる?」
翔がズンズンと近づく。
息がかかるほどに近づいて。
その距離は近いはずなのに。
「ねえ、あたしのこと見ている?」
どうしてこんなに心の距離が遠いの?
「…え?」
ぐいっと、力を込めて、顔をあたしに引き寄せる。
「あたしを見て」
深い闇なんて別に見ていても構わない。
そこに貴方が心から愛しいと思う世界があるのなら。
だけど貴方は違って。
ただ、現実から目を逸らしているだけだ。
「…見てるだろ」
「見てないよ。だってあたしと目が合わないもの。黒目はあたしのこと見てない。よそ見してるの」
ぐっと黙るということは自覚があるのだろう。
「ねえ、ここには貴方とあたし以外に誰がいるの?あたしたちだけでしょう?よそ見なんかするなんて腹立たしいわ」
「…」
唖然としている彼を見て、もう少しだけ頑張ることにする。
「もっと腹立たしいのは、それであたしに泣けなんて言うことよ。貴方はあたしのことを見ていないなら、たとえあたしが泣いたって気がつかないでしょう?」
キチンと見ていないやつは泣き顔なんて見られない。
「和佳菜…」
「…ねえ、貴方はどうせ何もわからないって顔をしているわ。あたしに分かってもらってたまるものかと、そう、思っているでしょう?」
背ける顔をこちらに向けさせる。
それから額を丁寧に撫でた。
「分からずやめ。確かにあたしは貴方の全てを分かるとは思わない。そこまで強欲じゃないわ。だけど、全てを知りたいと思うことはいけないこと?」
ようやくあたしの目を見た翔の瞳が僅かに揺れた。
全部分かる、なんてそんなことは言わない。
だけど、全部解りたいと思う気持ちを無下にするのは許さないわ。
「…ごめん、ほんと、ごめん……」
瞳から零れ落ちるように涙が溢れた。
それを皮切りに。
彼の涙は止まらなくなった。
それでいい。
しゃがみ込んで大泣きする翔はなんだか可愛かった。



