蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



多分少し、過去に取り憑かれているだけ。


どれだけ重くて暗い過去だとしても。


精神状態的に不安定になりやすいわけではない。


父親と会うとそうなるだけで。


いつも会う翔が本当の翔だって、あれが通常運転だって、今そう思った。


あたしが会っていたのは、上辺の優しい人ではなかったんだ。


彼は優しい。


優しい人は強い人もいるけど、脆い人もいる。


彼は圧倒的に後者だっただけだ。


今の彼も、間違えなく彼の中にいる感情のひとつだから。


だから、いいの。


これで。


このやり方が今の翔には1番あっている。



「だって和佳菜が弱っちゃってるところ、見たことないんだもん」


「割と見せているような気がするけど」


「俺らには見せてない。見せてるのは、仁だけ」


それは少し納得できる。


弱味は見せない主義だ、基本的には。


あたしの性格的に御涙頂戴は、疲れるだけだ。


「だから、俺も見たいなあって思って。ねえ、どうやって見せてくれる?泣いてくれる?」


翔がズンズンと近づく。


息がかかるほどに近づいて。


その距離は近いはずなのに。


「ねえ、あたしのこと見ている?」


どうしてこんなに心の距離が遠いの?


「…え?」


ぐいっと、力を込めて、顔をあたしに引き寄せる。


「あたしを見て」


深い闇なんて別に見ていても構わない。


そこに貴方が心から愛しいと思う世界があるのなら。


だけど貴方は違って。


ただ、現実から目を逸らしているだけだ。


「…見てるだろ」


「見てないよ。だってあたしと目が合わないもの。黒目はあたしのこと見てない。よそ見してるの」


ぐっと黙るということは自覚があるのだろう。


「ねえ、ここには貴方とあたし以外に誰がいるの?あたしたちだけでしょう?よそ見なんかするなんて腹立たしいわ」


「…」


唖然としている彼を見て、もう少しだけ頑張ることにする。


「もっと腹立たしいのは、それであたしに泣けなんて言うことよ。貴方はあたしのことを見ていないなら、たとえあたしが泣いたって気がつかないでしょう?」


キチンと見ていないやつは泣き顔なんて見られない。


「和佳菜…」


「…ねえ、貴方はどうせ何もわからないって顔をしているわ。あたしに分かってもらってたまるものかと、そう、思っているでしょう?」


背ける顔をこちらに向けさせる。


それから額を丁寧に撫でた。


「分からずやめ。確かにあたしは貴方の全てを分かるとは思わない。そこまで強欲じゃないわ。だけど、全てを知りたいと思うことはいけないこと?」


ようやくあたしの目を見た翔の瞳が僅かに揺れた。


全部分かる、なんてそんなことは言わない。


だけど、全部解りたいと思う気持ちを無下にするのは許さないわ。



「…ごめん、ほんと、ごめん……」



瞳から零れ落ちるように涙が溢れた。


それを皮切りに。



彼の涙は止まらなくなった。


それでいい。


しゃがみ込んで大泣きする翔はなんだか可愛かった。