初めてこの人を怖いと思った。
思ってしまった。
ここに来る人は何かしら事情を持っている。
翔にも何かしら事情があると分かっては居たけれど。
彼にこんな顔をさせる話なんて。
一体どんな出来事なのだろう。
「ごめん、和佳菜。和佳菜には話してなかったね。聴きたい?」
パッと表情を明るくしたその切り替えの速さに。
あまり驚かなくなったのは、誰でもない千夏ちゃんのお陰だと思う。
「貴方が話したいと思うなら。あたしは喜んで聞くけれど」
けれどそれが彼は気に食わなかったらしい。
「選択肢を俺に与えるのはずるいよ。和佳菜が決めて」
あたしに決めさせようとする翔もずるいと思うけどね。
「じゃあ、聞きたい。貴方のこと、ちゃんと知りたいと思ってるから」
クスリと笑った翔は。
「なら、ごめん。三郷と高梨には後で改めて話すから、今は2人にしてほしい」
そう言って、2人を交互に見つめた。
「え、いや…。でも」
三郷の困った顔にあたしは微笑んだ。
「すぐ外にいてくれる?何かあったらすぐに呼ぶわ」
そういえば、彼らは心配そうにあたしを見つめながら。
「わかりました。何かあったら呼んでくださいね」
と言って姿を消した。
「やっと…2人だね」
「ええ、貴方が望んだとおりよ」
その瞬間。
投げられた物はひとつ。
それをするりと避けると、それは壁に刺さった。
「…危ないわねぇ」
キラリと怪しく光る物体。
「…さ、っすが…だね」
「危ないわよ?こんな物、人に投げつけちゃ」
壁から抜き取ったのは、光る刃物だった。
「もしかして、読んでた?」
「貴方の狂気たっぷりの目から、何かしてくるだろうな、とは」
だって貴方の目、今も真っ暗なんだもの。
暗くて暗くて、底が見えないくらいに。
「…へぇ、やっば伊達に生きてないからわかるんだね」
「精神的に参らせたいなら他の方法にしなさい」
「…なぁんでも分かっちゃうんだ。つまんないの」
本当につまらない風に遠い目をした。
こんなに狂気的な翔だけれど。
本当の彼が君なのかと言うと、そうでもないと思う。



