蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



初めてこの人を怖いと思った。


思ってしまった。


ここに来る人は何かしら事情を持っている。


翔にも何かしら事情があると分かっては居たけれど。


彼にこんな顔をさせる話なんて。


一体どんな出来事なのだろう。


「ごめん、和佳菜。和佳菜には話してなかったね。聴きたい?」


パッと表情を明るくしたその切り替えの速さに。


あまり驚かなくなったのは、誰でもない千夏ちゃんのお陰だと思う。


「貴方が話したいと思うなら。あたしは喜んで聞くけれど」


けれどそれが彼は気に食わなかったらしい。


「選択肢を俺に与えるのはずるいよ。和佳菜が決めて」


あたしに決めさせようとする翔もずるいと思うけどね。


「じゃあ、聞きたい。貴方のこと、ちゃんと知りたいと思ってるから」


クスリと笑った翔は。


「なら、ごめん。三郷と高梨には後で改めて話すから、今は2人にしてほしい」


そう言って、2人を交互に見つめた。


「え、いや…。でも」


三郷の困った顔にあたしは微笑んだ。


「すぐ外にいてくれる?何かあったらすぐに呼ぶわ」


そういえば、彼らは心配そうにあたしを見つめながら。


「わかりました。何かあったら呼んでくださいね」


と言って姿を消した。



「やっと…2人だね」


「ええ、貴方が望んだとおりよ」


その瞬間。


投げられた物はひとつ。


それをするりと避けると、それは壁に刺さった。


「…危ないわねぇ」


キラリと怪しく光る物体。


「…さ、っすが…だね」


「危ないわよ?こんな物、人に投げつけちゃ」


壁から抜き取ったのは、光る刃物だった。


「もしかして、読んでた?」


「貴方の狂気たっぷりの目から、何かしてくるだろうな、とは」


だって貴方の目、今も真っ暗なんだもの。


暗くて暗くて、底が見えないくらいに。


「…へぇ、やっば伊達に生きてないからわかるんだね」


「精神的に参らせたいなら他の方法にしなさい」


「…なぁんでも分かっちゃうんだ。つまんないの」


本当につまらない風に遠い目をした。


こんなに狂気的な翔だけれど。


本当の彼が君なのかと言うと、そうでもないと思う。