「…和佳菜?」
「翔さん、大丈夫ですか?」
「…?うん、平気だけど。え、なんかあった?」
この人、記憶を失ってる。
あたしたちがぽかんとして何を察したのか。
あー…と言って、頭を抱え出した。
「え、大丈夫ですか?頭痛いんですか?」
さらに心配した三郷が肩に手を添えると、翔はふるふると首を横に振った。
「いや……、大丈夫。俺、なんかやばいことやらかすと記憶飛ぶんだよね。綾と幹部室入ってから記憶ないわ」
「その、前は?」
恐る恐る口に出すと。
翔はしかめ面をして悩み出した。
「前?あれ?なんで、幹部室入ったんだっけ?」
「もう、いいわ。思い出そうとしなくていい」
多分翔は、苦しみから逃れる為に、自己防衛のために記憶を消しているんだと思う。
「…ごめん、そこら辺曖昧だ」
彼にとっての父親は、どんなものだったんだろう。
記憶を消したくなるくらい、嫌な思い出なのね。
「どうして泣きそうな顔をしているの?」
翔はぐっと何かに耐えていた。
「だって、三郷や高梨、和佳菜まで心配してくれることって。俺、一体何したんだろうとか思うよ。すげえ怖くなる」
「じゃあ聞きたい?」
それで血相を変えたのは三郷だった。
「それは!翔さんのトラウマに関わることですし…!」
言わない方がいい、と三郷は言いたかったみたい。
だけど。
「ああ、父さんのことね」
躊躇いもなく翔は口を開く。
どうやら、トラウマという言葉でピンときてしまったようだ。
「死んでくれって願うほど嫌いなんだよ、あいつ」
その目は誰よりも濁っていて。
光なんか宿していなかった。



