蒼の花と荒れる野獣Ⅱ




「…和佳菜?」


「翔さん、大丈夫ですか?」


「…?うん、平気だけど。え、なんかあった?」


この人、記憶を失ってる。


あたしたちがぽかんとして何を察したのか。


あー…と言って、頭を抱え出した。


「え、大丈夫ですか?頭痛いんですか?」


さらに心配した三郷が肩に手を添えると、翔はふるふると首を横に振った。


「いや……、大丈夫。俺、なんかやばいことやらかすと記憶飛ぶんだよね。綾と幹部室入ってから記憶ないわ」


「その、前は?」


恐る恐る口に出すと。


翔はしかめ面をして悩み出した。


「前?あれ?なんで、幹部室入ったんだっけ?」


「もう、いいわ。思い出そうとしなくていい」


多分翔は、苦しみから逃れる為に、自己防衛のために記憶を消しているんだと思う。


「…ごめん、そこら辺曖昧だ」


彼にとっての父親は、どんなものだったんだろう。


記憶を消したくなるくらい、嫌な思い出なのね。


「どうして泣きそうな顔をしているの?」


翔はぐっと何かに耐えていた。


「だって、三郷や高梨、和佳菜まで心配してくれることって。俺、一体何したんだろうとか思うよ。すげえ怖くなる」


「じゃあ聞きたい?」


それで血相を変えたのは三郷だった。


「それは!翔さんのトラウマに関わることですし…!」


言わない方がいい、と三郷は言いたかったみたい。


だけど。


「ああ、父さんのことね」


躊躇いもなく翔は口を開く。


どうやら、トラウマという言葉でピンときてしまったようだ。



「死んでくれって願うほど嫌いなんだよ、あいつ」




その目は誰よりも濁っていて。




光なんか宿していなかった。