「気に病むなよ」
瑞樹がそう声をかけてくれる。
セブさんはあれから失礼しました、と言ってあたしから逃げるようにいなくなってしまった。
まだ罪悪感が拭い切れていないようだ。
目を見ないセブさんのオドオドした様子が伝わってきた。
「…うん」
「めっちゃ落ち込んでるじゃん」
「落ち込んでなんかいないわよ。ただ」
「…ただ?」
「あたしはマークの本質を何一つ見ていなかったんだなって、思っていたの」
多分、あたし達は何一つ知らなかった。
こんなにすれ違う恋人なんて、多分なかなかいないのではないか。
「あの人は弱いとこは見せたくないの。好きな女には誰だってそうなんじゃない?」
それが結果、すれ違うことになったんだけど。
そう言った瑞樹は空に向けてため息を吐き出した。
「…ま、マーク様がちゃんと愛してくれてたってこと、ちゃんと伝わってよかったんじゃない?」
「充分すぎてもう要らない」
「そりゃごもっとも」
瑞樹と2人で笑った。
「…愛が伝わらないことだってあるんだから。マークの恋も報われて、お前らは結末こそ幸せじゃないけど、これでよかったんだよ。な?そう思うしかないだろ」
愛が伝わらないことだってある。
それはきっと瑞樹が経験したことなのだろう。
顔を見ればわかる。
いちいち聞くつもりはないけれど、そんな経験をしたことのある人間からの言葉ほどよく身にしみるもの。
「…帰ろう」
「そーだな。あいつらに早くあってやれよ」
うん、早く逢いたいな。
[アラン様、デイビッド、セブさん。今日は本当にありがとうございました]
帰ると言うと、3人が玄関まで見送りに来てくれた。
[本当に食べていかなくていいのかい?]
アランはなおもそういうけれども。
[はい。ご家族や仕事仲間の皆さんで弔っていただいたほうがいいのかなと思って]
[きみだって立派にかぞー]
[あたしは]
アランの言葉を遮るなんて失礼に値する気がしたけれども、それでも止められなかった。
[もうマークさんとは恋人じゃないんです]
これは決別なんだ。
別れ、なんだ。
決めたことは覆さない。
あたしの決め事。
[恋人ではないあたしが、側にいることは違うと思うんです]
納得してください。
あたしがここにいる権利は与えられていない。
あたしの真剣な顔を見て、なにを思ったのかは分からない。
ただ、アランはふっと笑ってから。
[それなら、仕方ないね]
そう言って送り出してくれた。



