「若、綾さん、和佳菜さん。お迎え行けずにすんません」
え、あたしの名前知っているの?
タクシーから降りて見上げた建物は、大きい日本家屋だった。
さすがに銀深会の本部までとはいかないけれども。
さすがに大きすぎる。
その下でスキンヘッドの30代くらいのお兄さんが、そう声をかけた。
「構わねえよ。ちょうど、そとに出てたんだろ。俺らがいく方が楽だ」
仁は気にしてもいないようで、なんでもないように口を開いていた。
あたしの感じる違和感にはおそらく微塵も気付いてない。
「…どうしてあたしの名前知っているのですか?」
つい、立ち止まってしまう。
その前に貴方は誰ですか?
聞きたいことが山ほどある。
あたしの記憶上ではこのスキンヘッドのお兄さんには一度も会っていない。
「あ、すんません。俺、ここで働いとる吉野っていいます。和佳菜さんは何というか」
「お前は自分で思ってるよりずっと有名人だよ」
穏やかに綾が笑った。
「でも、玲も椎田もあたしの顔を知らなかったのよ?」
「…あの、2年前の若が男性を殴っとった動画の格好とか、背丈とか、それですぐピンときまして」
どの動画かは分かった。
あやみさんや佐久間先生と病院で会った時見たと言っていた動画とおそらく同じものだろう。
あたしが驚いているのはそこではない。
あたしを一目見ただけで。
寸分の狂いもなく当てられてるというの?
「そういえば吉野はそういうのですぐ分かるよな」
仁が懐かしそうに笑った。



