「…遅いわよ。あたしもう直ぐで、貴方の組長に撃たれそうだったのよ?」
「俺は別に貴女を助けようとしたわけではありまへんから。ただ説得に時間がかかった、それだけのことです」
「玲が一緒にやりたい人だけでいいと言ったのに」
「その人の説得に時間を要したんすよ」
___________________遡ること、千夏ちゃんの部屋の前。
玲にそっと笑いかけた。
『…提案があるの』
『なんです?』
『貴方がもし、少しでも自分の主人に不満を持つなら、信用できる部下を連れて獅獣においで』
『なんでうちが、んな暴走族に』
『獅獣に来れば、千夏ちゃんに逢えるわよ』
『…だいたい、和佳菜さんのそれ、独断でしょう。分かっとらんとお思いですか?』
『そこまで知られていたとは思わなかったけど…まあ、でも貴方と貴方の信用できる人なら、仁も歓迎してくれるわ』
『わかってんすか?うちは敵やけん。貴女んところに反撃しよるかも知れんのですよ?』
『分かっていても、貴方はしないから。もし、ここに不満があるのなら、おいで』
「そもそも、来るかも分からん人間を、信用出来るんか。謎しかありませんわ」
「あたしね、人の気持ちを想像するのは、最近ようやくできるようになってきたけど。自分にとってどういう人間なのかはすぐにわかることができるの」
「自信過剰と思いません?」
「なんとでも言って。貴方がここにきた事実は変わらないわ」
玲は諦めたように眉を寄せて。
「も、いいです。まあ、組長。そうことやけん、俺に譲ってやくれません?」
余裕のある笑顔に葏忢さんの顔が歪んだ。
そう、玲。
貴方はそういう選択をしたのね。
やっぱりここが一番なのね。
「お前…!なに言っとんや!」
「ずっと疑問に思ったっとんすよ。うちは男女の扱いが違いすぎる。女には女しかできひんことが、男には男しかできひんことがあるはずやのに。この人はどうして同じことをさせるんやろって」
「…後ろのそいつらはなんや」
「見て分からんのですか?貴方のやり方に不満を持っている奴らですよ。こんなに集まりましたよ?」
後ろには何十人もの人が並んでいた。
その人の多さに思わず笑いそうになった。
いけないいけない、あたしはまだ“ 頭に拳銃を突きつけられている ”のだから。
「…さて、どうする?葏忢さん。貴方の選択はいかがして?」
「てめえら、この俺に歯向かったことがどういうことかわかっとるか?」
「分かっていますよ、青山の組長」
気づかぬうちに背後に回っていたらしい。
「うああっ!」
ふと、頭に感じていた重みが無くなった。
見れば、葏忢さんは右手を押さえて崩れ落ち、すぐ後ろで、仁が薄く笑っていた。
拳銃を持った右腕を捻り上げ、奪ったようだ。
「周りに人が居なければ何もできない貴方がこの先一人で出来ることなど、そう多くはないでしょう」
白い目で見下した仁が、そう言ってから。
ぐっとさっきよりキツくしめた。
「うぅっ!」
「どうぞひとりで苦しんでください。横暴な貴方には今の姿がぴったりです」
あとは頼む、そう言ってスーツの男の人に引き渡した。
彼はきっと日の目を見ることはないのだろう。
そう思ったら。
「待って」
そう、声を掛けていた。



