喧嘩なんて、見たことがなかった。
マークの側にいてもこんなことはなかったから。
見えない所で、あたしが怖い思いをしないように。
だから、この破裂音が、爆破音が、骨が折れるような音が、怖くて堪らない。
「目ぇ瞑ってろ」
小さく震えたのが、見えたのだろうか。
貴方が小さく微笑んで、隠すように守ってくれた。
だけど決着など、あたしが目を瞑る暇もなくついた。
部下も何人も入ってきたのに、気がつけば彼らはみな倒れ、葏忢は羽交い締めにされていた。
「…俺は手加減なんかしねえ。上に立って、自分の力を使わずにのうのうと生きるあんたに、負けるなんて初めから思ってねえだけだ」
仁がぐっと力を入れたのか、葏忢さんは小さく唸った。
だけどくっと笑って。
「舐めとるわ」
笑った顔に動揺したのか。
仁は乱暴に払い落とされ、誰も味方の付いていなかったあたしの頭に。
「ほんと、ええ気分」
拳銃の銃口を押し当てた。
「和佳菜!」
仁の焦った顔が目に映る。
「…そのおじょーさんが、俺らにあんなことしなきゃ、こんな目にも合わんかったのにな」
ケタケタとさぞ楽しげに笑う葏忢は、趣味が悪くて、気持ちも悪い。
だけど大丈夫、あたしは怖いなんて思わない。
どうやら貴方はお忘れのようだけど。
「貴方がたは、あたしのせいだって言いたいようだけど、それは違うわ」
あたしがマークの側にいて、なにをしていたか、分かっている?
「は?」
あたしはね。
「全部自分のせいなのよ」
人の行動を意のままに操るのが得意なの。



